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刀の残り香3

博物館に入ると、外の冷たい空気が嘘みたいに、

エントランスはふわっと暖かかった。

暖房の匂いと、ワックスのような床の匂いが混ざっている。

自動ドアが閉まると、外のざわつきが一気に遮断されて、館内特有の静けさが広がった。

「思ったより人おるな」

友人が周りを見渡しながら言う。

「せやな。刀の展示って人気あるんやな」

「最近またブーム来てるらしいで。

 若い子も結構来るって聞いたわ」

「へぇ。

 刀って、なんか“見るだけで満足する”感じあるよな」

「分かる。

 あれ、実物見るとテンション上がるねん。

 写真と全然違う」

受付の列に並びながら、

友人は展示のポスターをじっと見ていた。

「この刀、名前聞いたことあるわ。

 なんか逸話があるやつやったはず」

「お前、よう覚えてるな」

「いや、覚えてへんねんけど……

 “あ、これ知ってる気がする”ってなるやつあるやん」

「あるある。

 でも大体気のせいやけどな」

「それ言うなや」

二人で軽く笑う。

順番が来て、特別展示のチケットを購入する。

係員が丁寧にパンフレットを渡してくれた。

「展示室はあちらになります」

と案内され、廊下へ向かう。

歩きながら、友人がパンフレットを開いて言う。

「なぁ、これ見てみ。

 “刀剣の持つ精神性”とか書いてあるで。

 なんか難しそうやな」

「精神性ってなんやねん。

 刀に心あるみたいな言い方やな」

「いや、でもあるんちゃう?

 なんか“空気”持ってるやん、刀って」

「空気な。

 まぁ、分からんでもないけど」

そんな他愛ない話をしながら、

展示室の前に差しかかった。

その瞬間、

ふっと、鼻の奥を刺すような匂いがした。


鉄錆みたいな、

乾いた金属を削った後のような、

そんな匂い。


思わず「うっ」と顔をしかめると、

横を歩いていた友人が不思議そうにこちらを見た。

「どうしたん?」

「いや、大丈夫。

 鼻水出そうになっただけ」

軽く笑って誤魔化す。

友人は「ふーん」と首を傾げただけで、

特に気にしていない様子だった。

どうやら、この匂いを感じているのは自分だけらしい。

何かあるんかな…

そんな小さな疑問が、

胸の奥にひっかかったまま残った。

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