カメラマンへの囁き6
「いや、お前が逆の立場で考えてみようぜ」
俺は軽く言った。ほんまに軽く、雑談の延長みたいに。
「お前がその子の彼氏でさ。
会いたい時に“カメラマンと個撮行くわ”って言われたらどうや?」
撮影仲間は、カップを持ったまま固まった。
「……いや、それは……まぁ……気分ええもんではないけどよ」
「やろ。普通はちょっとモヤるやん」
「……まぁ、そりゃな」
撮影仲間は、視線をテーブルに落としたまま、
指先でカップの取っ手をいじっていた。
「でも、それと“チッ”って音がどう関係あんねん」
「いや、分からんて。分からんけどな」
俺は肩をすくめた。
「たださ、もし俺が彼氏やったら、
正直あんま気分良くないわけよ。
んで、お前は……ちょっと人とは違う音、聞こえちゃう方やん?」
撮影仲間は、そこで小さく息を呑んだ。
「……つまり、どういうことやねん」
「いや、ほんまに俺の想像やけどな」
俺は、あえて軽い口調のまま続けた。
「“チッ”って音、もしかしたら……
お前にだけ向けられてる“感情”なんちゃうかなって思って」
撮影仲間は、カップを置く音さえ立てずに、
ゆっくりと顔を上げた。
「……俺にだけ、か」
その声は、さっきよりずっと小さかった。
「お前、撮影頻度めっちゃ多かったやろ?」
俺がそう言うと、撮影仲間は苦笑いみたいな顔をした。
「まぁ……多い方やとは思うけどよ」
「だからさ、敵意というか嫉妬というか……
そんな感情向けられてるんちゃうか?」
「嫉妬って……誰のやねん」
「いや、知らんけどな」
俺は肩をすくめた。
「しかもお前、話好きやん。
撮影終わったあと、めっちゃ飯行ったりしてんやろ?」
撮影仲間は、そこで一瞬だけ目をそらした。
「……まぁ、行くけどよ。
あの子、話しやすいし……」
「ほらな。そういうの、彼氏からしたら
あんま気分ええもんちゃうやろ」
「……まぁ、そりゃそうかもしれんけどよ」
撮影仲間は、コーヒーを持つ手をぎゅっと握った。
「でも、それが“チッ”って音になるか?」
「いや、知らんけど」
俺はあえて軽く言った。
「生霊みたいなんちゃうん?」
撮影仲間は、カップを置く音さえ立てずに固まった。
「……生霊って、お前……」
「いや、ほんまに知らんけどな。
ただ、お前にだけ聞こえるってのが気になってさ」
撮影仲間は、ゆっくりと息を吐いた。
「……もしそうやったら、どうしたらええねん」
その声は、さっきよりずっと小さかった。




