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趣ある民宿にて4

布団に横になり、やがて意識が薄れていった。

古い時計の振り子が規則正しく音を刻み、眠りへと誘う。

玄関の人形の姿が頭をよぎりながらも、旅の疲れが勝ち、まぶたは重く閉じていった。

ふと、何故か目が覚めた。

部屋は静まり返り、障子の隙間から漏れる灯りもない。

枕元の時計に目をやると、針は午前二時半を指していた。

背筋に冷たいものが走る。

耳を澄ますと、廊下の奥から足音が聞こえてくる。

板張りを踏む、ゆっくりとした足音。

誰かが歩いている。だが、この時間に宿の客が動く理由はあるだろうか。

足音は近づいてくるようで、やがて玄関の方で止まった。

思わず息を殺す。

頭に浮かんだのは、ガラスケースに収められた日本人形の姿だった。

布団の中でじっとしていると、心臓の鼓動がやけに大きく響く。

「夢だ」「気のせいだ」と自分に言い聞かせるが、耳は敏感に音を拾ってしまう。

玄関で止まった足音が、まだそこに残っているような気がしてならない。

確認に行くべきか――。

もし他の客なら、ただの用事かもしれない。

だが、居酒屋で聞いたおじさんの言葉が頭をよぎる。

「その民宿にはな……」と切りかけて、言葉を飲み込んだあの沈黙。

布団から出れば、廊下に出ることになる。

そして必ず人形の前を通らなければならない。

赤い着物の人形が、ガラス越しにこちらを見ている姿が脳裏に浮かぶ。

女将さんの「見守ってくれてるんです」という言葉が、今は逆に重くのしかかる。

「確かめたい」という気持ちと、「見たくない」という恐怖がせめぎ合う。

もし人形が動いていたら?

もし足音の正体がそれだったら?

そんな馬鹿げた想像を打ち消そうとするが、頭の中で何度も繰り返される。

時計の振り子が規則正しく音を刻み、時間だけが進んでいく。

布団の中でじっとしているだけでも、背中に冷たい汗が滲んでくる。

「行くべきか」「行かないべきか」

その葛藤が、永遠に続くように感じられた。

やがて、ほんの少しだけ体を起こす。

障子の向こうは静まり返り、何も動いていない。

だが、確かに足音はあった。

その確認をしなければ、眠ることなどできそうにない…そう思い始めていた。

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