カメラマンへの囁き3
「なんかな、撮影したらさ」
撮影仲間は、指先でコーヒーカップの縁を軽く叩いた。
「カシャッってシャッター切れるやろ。
あれに混じって……チッ、って音が聞こえるねん」
その“チッ”の言い方が、妙に生々しかった。
「最初は気のせいやと思ったんよ。
スタジオの機材か、どっかの金属音か……そんな感じの」
そう言いながら、撮影仲間は視線をテーブルに落とした。
「でもな、それが……えんえん聞こえるねん」
“延々”じゃなくて、“えんえん”と言った。
その言い方が、妙に耳に残った。
「シャッター切るたびに、必ず混じるねん。
カシャッ……チッ。
カシャッ……チッ。
ずっとや」
店内のざわつきが、少し遠くなった気がした。
「で、その子に聞いたんよ。
なんか音してへん?って」
撮影仲間は、そこで小さく首を振った。
「聞こえてないって言うねん。
ほんまに、なんも聞こえてへんって」
その言い方が、嘘をついてるようには聞こえなかった。
「それが……二ヶ月くらい前かな」
撮影仲間は、そこで一度だけ深く息を吸った。
「そっからやねん。おかしくなったん」
「それでな……」
撮影仲間は、コーヒーを持ち上げかけて、
結局そのままテーブルに戻した。
「まぁ、毎月なんやかんやであちこち撮影してるやろ。
スタジオもロケも、色んな子撮るんやけどな」
そこで一度、言葉を切った。
「……その子が来る撮影だけ、必ず聞こえるねん」
顔を上げた時、さっきまでの軽い笑いはもうなかった。
「舌打ちみたいな……チッ、て音が。
俺にだけ、や」
その“や”の言い方が、妙に乾いていた。
「他の子の撮影では一回もないねん。
その子の時だけ、絶対に混じる。
シャッター切るたびに、チッ……チッ……って」
撮影仲間の顔が引き攣っているのが分かった。
俺は、いつものように
「また変なもん拾ったんか」くらいに笑おうとしたけど、
喉の奥で言葉が止まった。
今回の話は、どう考えても“おもろい話”の温度じゃなかった。
「……これは深刻やな」
そう思った瞬間、店内のざわつきが
妙に遠く感じた。




