魅入られた子6
電話がつながった瞬間、落ち着いた声が耳に届いた。
「お久しぶりですね。
……また、困り事に首を突っ込みましたか?
それとも巻き込まれて困っているか、
見捨てられなくて悩んでいますか?」
まるで俺の横で話を聞いていたみたいに、状況をそのまま言い当ててくる。
胸の奥がざわついた。
「実は……どうもよく分からないものに憑かれている気配のある女性がいまして。友人の友人なんですが……話を聞いてしまったので、困っています。
見捨てることもできますが……後味が悪く感じてしまって。俺の手ではどうしようもないと思いまして……」
夕方の風が頬を撫でる。
電話越しの宮司さんは、静かに聞いていた。
俺が詳細を話し始めると、
宮司さんは一度だけ小さく息を吸い、
淡々と告げた。
「……ならば、今からその子だけで
私の元に来るように伝えなさい」
その言い方は優しいのに、どこか“決定事項”のような重さがあった。
「来るも来ないも、その子次第でしょう。
無理に連れてくる必要はありません」
少し間があって、続ける。
「むしろ、女友達の方は……君と一緒にいれば大丈夫でしょう」
その言葉が、妙に引っかかった。
「すぐに伝えなさい」
そう言って、宮司さんは電話を切った。
耳に残るのは、夕方の風の音だけだった。
店に戻る時、俺は覚悟を決めていた。
もう俺がどうこうできる段階じゃない。
後は……本人次第だ。
席に戻り、宮司さんから
「本人だけで神社に向かうように」
と言われたことを伝えた。
○○ちゃんは驚いた顔をしたが、
それでも、ダメ元でも縋りたいのだろう。
「……すぐ向かいます」
と小さく言って、立ち上がった。
その背中は、決意というより、追い詰められた人間のそれに見えた。
女友達が慌てて追いかけようとしたので、俺は咄嗟に腕を伸ばして止めた。
「宮司さんからは……あの子だけって言われた。
君はここで待つほうがいい」
そう言って、もう一度座ってほしいと伝える。
女友達はしばらく迷っていたが、ゆっくりと席に戻った。
椅子がわずかに軋む音が、妙に大きく聞こえた。
「……あんた、あの子だけでたどり着けると思ってるん?」
責めるような声音だった。
でも、その奥にあるのは怒りじゃなくて不安だ。
俺は少しだけ息を吐いた。
「正直……わからん。もう遅いかもしれんし、助かるかもしれん。ただ……俺の手に負えるタイミングは、もう過ぎてる」
夕方の光が店内に薄く差し込み、女友達の表情を半分だけ照らしていた。
「だから……プロに任せるんや」
その言葉を口にした瞬間、自分の中の“逃げたい気持ち”と“助けたい気持ち”がどちらも静かに沈んでいくのを感じた。




