魅入られた子3
入口のベルが、カラン…と軽い音をたてた。
その一音で、店内の空気がわずかに揺れた気がした。
女友達の視線が、反射的にそちらへ向く。
まるで、その瞬間を待ち構えていたみたいに。
ベルの下には、黒いロングヘアの女性が立っていた。
思わず目を見張るほど綺麗な子だった。
けれど、どこか陰があるというか、
店内の明かりの中で、彼女だけ影が濃いように見えた。
こちらに気付くと、ゆっくりと歩いてくる。
歩幅は普通なのに、足音がほとんどしない。
動きに“間”があるのに、不自然ではない。
ただ、静かすぎた。
女友達の顔が、緊張でわずかに引き攣っている。
普段の女友達なら絶対に見せない表情だ。
席に来た彼女に「初めまして」と挨拶すると、
「……こんにちは」
と、小さな声が返ってきた。
声は聞こえるのに、耳の奥に残らない。
そんな不思議な感覚だった。
彼女は静かに席に座り、コーヒーを注文した。
店内は暖かいのに、彼女の周りだけ空気が薄いように感じる。
とりあえず紹介をしてもらう。
女友達が、少しだけ息を整えてから言った。
「この子は、前に少し話したキャンプ女子の○○ちゃん」
その“○○ちゃん”という名前を口にする時だけ、
声がほんの少し震えた。
「んで、こっちの人が……私の友達で、
怪奇譚とか集めてる変な友達」
いつもの軽口のはずなのに、
語尾だけが妙に弱かった。
○○ちゃんは、ゆっくりとこちらを見た。
その目は、笑っているようにも、
何も見ていないようにも見えた。
「んで? 俺になんの話なの?
何も聞かされてないから、よくわかんないんだよね」
そう言うと、○○ちゃんは一瞬だけこちらを見て、
すぐに視線を落とした。
「えっと……その……」
言葉が喉の奥で絡まっているみたいに、なかなか続かない。
「実は……少し前に行ったキャンプから、
変なことが続いてて……」
そこまで言うと、急に周りをキョロキョロと見回し始めた。
落ち着かないというより、
“誰かを探している”ような動きだった。
その仕草に、どこか既視感があった。
前にも、こんなふうに周囲を気にしていた誰かを見た気がする。
(……誰だっけ)
思わず女友達の方を見る。
女友達は、俺の視線に気づくと、
小さく首を振ってから、囁くように言った。
「ちょっと待ってね。話すの……苦手だから」
その声は、○○ちゃんに聞こえないように抑えているのに、どこか焦りが滲んでいた。




