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魅入られた子1

友人からあのキャンプの話を聞いてから、一ヶ月ほど経った頃だった。

昼休みにスマホが震え、仲のいい女友達からメッセージが届いた。

「ちょっと相談に乗ってほしいことあるんだけど、時間取れない?」

その一文だけで、少し違和感があった。

あいつなら普通、

「ちょっと相談乗ってやー」

くらいの軽いノリで来るはずだ。

妙に丁寧で、言葉を選んでいる感じがした。

続けてメッセージが届く。

「私のことじゃなくて、私の友達なんだけどさ」

(……おや?)

珍しいなと思いながらも、

「いいよ。今週末の昼頃なら時間取れるけど、いつものお茶するところでいいかな?」

と返す。

既読はすぐついたが、返事は少し間があった。

「ちょっと確認したら連絡するわ」

そのまま午後の仕事に戻ったが、胸の奥に小さな引っかかりが残った。

仕事終わり、スマホを見ると短いメッセージが届いていた。

「週末、昼過ぎにいつもの場所で」

そして最後に一行。

「ただし、あんた一人で来てほしい」

(……およ?)

本当に珍しい。

あいつがそんな条件をつけるなんて、まず無い。

“友達の相談”というより、

“何かを見られたくない”

そんな空気すら感じた。


そして週末。

約束より少し早めに家を出た。

なんとなく、そうした方がいい気がした。

冬の空気は冷たく、車に乗り込むと指先がじんと痛む。

エンジンをかけ、暖気している間に音楽を選ぶ。

今日はMCバトルにしよう。

少し古いけど、ビートとライムが気持ちよく車内に広がる。

アクセルを踏み込みながらテンションを上げていくが、胸の奥のざわつきだけは消えなかった。


(なんか、嫌な予感するな)


信号待ちで外を見ると、

昼前なのに空が妙に白く、光が弱い。

冬の曇り空特有の、色のない世界。

店の近くの駐車場に車を入れた。

エンジンを切ると、急に静寂が落ちてくる。

さっきまでのラップの余韻が耳に残っているのに、

外の空気はやけに冷たく、乾いていた。

車を降りると、吐く息が白く伸びる。

時計を見ると、約束の時間よりまだ少し早い。

なんとなく、すぐ店に向かう気になれず、

駐車場の端で空を見上げていた。

冬の空気は澄んでいるのに、どこか重い。

胸の奥に、説明できないざわつきが残る。

(……行くか)

そう思い、喫茶店へ向かった。

ドアを開けると、暖かい空気がふわっと身体を包んだ。

外の冷たさが嘘みたいに和らぐ。

店内はまだ空いていて、いつもの席が空いていた。

そこに座り、コートを脱いで一息つく。

外の空気が、さっきより遠く感じた。

胸のざわつきは残ったままだったが、

とりあえず女友達を待つことにした。

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