年末のビジネスホテルにて5
店を出ると、外の空気は一段と冷えていた。
年末の夜特有の、乾いた冷たさが頬に刺さる。
寒いので急いでホテルに戻る。
フロントに入った瞬間、明るい照明と暖かい空気が身体を包んだ。
外との温度差が大きすぎて、逆に落ち着かない。
エレベーターで自分の階まで上がり、部屋に戻る。
ドアを開けた瞬間、やっぱり暖かい。
暖房を切っていたはずなのに、まるで誰かがしばらくいた後のような温度だった。
風呂に湯をためて浸かり、身体を温める。
浴室の外が妙に静かで、空調の音が弱い気がした。
風呂から上がり、早めに寝ようとベッドに入る。
照明を落とすと、部屋の暖かさがやけに重く感じた。
その時だった。
カーテンを閉めた窓の方から、コツ…コツ…と小さな音がした。
(……外側だな)
すぐに分かった。
ガラスの“外側”を叩く、あの独特の響き方だった。
けれど、この部屋は高層階で、ベランダも外廊下もない。
窓の外はただの夜景と空気だけで、人が立てる場所なんてどこにもない。
“外側で鳴らせる構造じゃないのに、外側から聞こえる”。
その矛盾が、じわっと背中を冷やした。
気のせいだと自分に言い聞かせて寝返りをうつ。
すると、また。
コン…コン…。
今度は、はっきり外側だと分かる音だった。
ガラス越しに、すぐ向こう側で何かが指先で叩いているような。
部屋の暖かさが、急に肌にまとわりつくように感じる。
暖房の温度じゃない。
誰かの体温が残っているような、そんな生々しい暖かさ。
コン……。
一度だけ、低く、重い音が鳴った。
外側でしか鳴らないはずの音が、なぜか部屋の中に響くように感じた。




