年末のビジネスホテルにて3
「兄ちゃんは?なんで一人旅なんだ?」
おじさんが煮物をつつきながら聞いてきた。
「いや、趣味ですよ。写真撮るのが好きで。
年末にちょっと気分転換したくて」
「おぉ、趣味か。ええなぁ。そういうのが一番だよ。
仕事でやるとしんどくなるけど、趣味なら続くもんな」
おじさんは妙に納得したように頷いた。
「写真ってさ、あれだろ?なんかこう…
“切り取る”ってやつだろ?」
「まぁ、そんな感じですね」
「いいよなぁ。俺も昔はカメラ持って旅行したんだよ。今はもう、重くて持てねぇけどな」
そう言って笑うけど、その笑い方はどこか優しかった。
「兄ちゃん、趣味で旅して、飯食って、写真撮って…
なんか、いいじゃん。そういうの、若いうちにやっとけよ」
「まぁ、のんびりやってます」
「のんびりが一番だよ。俺なんか年末になると、
こうして一人で飲んで終わりだよ」
おじさんはまた酒を飲み、こちらの皿を覗き込む。
「それ、美味いだろ?ここは何食っても外れねぇんだよ」
「確かに美味しいですね」
「だろ?俺、ここ二十年通ってんだ」
店の奥では女将さんが常連と笑い合い、
厨房からは鍋の煮える音が絶えず聞こえる。
年末のざわつきと、店の温かさと、
おじさんのどうでもいい話が混ざって、
なんとなく心地よい時間が流れていた。
そんな時だった。
「なぁ兄ちゃん。ホテル、どこ泊まってんの?」
おじさんが、急に真面目な声で聞いてきた。
さっきまでの陽気さとは違う、妙に落ち着いた声だった。




