年末のビジネスホテルにて1
その日は、少し遠目の場所で二日間カメラの撮影があった。
初日は朝から動きっぱなしで、気づけば夕方を過ぎていた。
さすがにこのまま帰る気にはなれず、駅前のビジネスホテルを取っておいた。
チェーンの、どこにでもあるタイプのホテルだ。
外は駅前らしくざわついているけど、ロビーに入ると急に静かになる。
暖房の匂いと、少し乾いた空気が鼻に残った。
フロントには、落ち着いた雰囲気の女性スタッフが立っていた。
髪を後ろでまとめていて、声は柔らかいけどよく通る。
「ご予約の○○様ですね。本日はご旅行ですか?」
「ええ、観光で。ちょっと撮影も兼ねてますけど」
「そうなんですね。お疲れさまです。
もしよければ、近くに美味しいお店がありますよ。
出張の方にも人気でして」
そう言って、カウンターの下から小さな地図を取り出し、指先でなぞりながら場所を教えてくれた。
爪が綺麗に整えられていて、妙にその動きが丁寧だった。
「この通りをまっすぐ行った先にあるお店なんですが、少しお値段は張りますけど、味は間違いないです。女性のお客様にも好評でして」
「へぇ、いいですね。じゃあそこ行ってみます」
「ありがとうございます。お部屋は○階になります。
エレベーターを出て右手にお進みください」
鍵を受け取ると、金属の冷たさが指に残った。
軽く会釈してエレベーターに乗る。
部屋に入った瞬間、ふわっと暖かい空気が押し寄せてきた。
暖房をつけた覚えはないのに、妙に暖かい。
冬場だから助かるけど、どこか“人の気配”みたいな温度だった。
とりあえず荷物だけ置いて、夕飯を食べに出ることにした。
ホテルを出ると、外の空気は思ったより冷たかった。
さっきの部屋の暖かさが、妙に頭に残る。
駅前の雑踏を抜けて、教えてもらった店へ向かう。
人通りは多いのに、風だけが妙に冷たい。
歩いているうちに、ホテルのロビーの乾いた暖かさが恋しくなった。
店は駅から少し離れた路地にあった。
外観は落ち着いていて、灯りも控えめだ。
扉を開けると、ふわっと温かい空気と出汁の匂いが広がった。
「ああ、ここで良かったな」
そう思いながら席に案内され、ようやく一息ついた。




