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久しぶりの遠出6

お茶の湯気がゆっくりと立ちのぼり、

その向こうで、ご住職の読経が深く響いていた。

低く、どっしりとした声が、

部屋の隅々まで染み込んでいくようだった。

その声に耳を預けていると、

さっきまで本堂で感じていた冷たさが、

少しずつ薄れていく気がした。

だが、

読経の響きに紛れて、

またあの音が聞こえた。

本堂の方へ向かう、ゆっくりとした足音。

木の床を踏む、重い音。

そしてその合間に、

具足の金属が擦れ合うような、細い音が混じっている。


カチ…

カラ…


読経の声が強くなるほど、

その金属音は逆に輪郭を持って耳に届いた。

受付のお坊さんは、

湯呑みを置く音ひとつ立てずに動いている。

ご住職の声も乱れない。

まるで、自分にしか聞こえていない音

のようだった。

しばらくして読経が終わり、

ご住職が静かにこちらを向いた。


「冷えは取れましたか」


その声は穏やかで、

さっきの金属音とはまるで無関係のようだった。

「はい。ありがとうございました」

そう答えると、

ご住職は軽く頷き、

「どうぞ、気をつけてお帰りください」と言った。

外に出ると、

山門の桜はまだ風に舞っていた。

さっきよりも陽が差して、

花びらが明るく揺れている。

車に戻る途中、

ふと本堂の方を振り返った。

静かだった。

誰の気配もない。

ただ、古い木造の建物が、

朝の光の中でじっと佇んでいるだけだった。

エンジンをかけると、

ジャズピアノの柔らかい音が流れた。

その音に包まれながら、

ゆっくりと寺を後にした。

あの足音のことは、

結局、誰にも言わなかった。

旅はまだ続く。

ただ、あの本堂の静けさだけが、

帰り道のどこかで、

ふと胸の奥に蘇るのだった。

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