冬のソロキャン後日譚
「山には魑魅魍魎ってのがいるし、神様の話も多い。
天狗や神隠しの伝承なんて山ほどあるんだよ」
そう言うと、友人は苦笑いしながらも、
どこか“聞く準備”をしているような顔をしていた。
「んでな、今週末はキャンプ行かねぇんだろ?」
「ああ……さすがに行く気にはならんわ」
「だろうな。
なら、ちょっと行って欲しい場所がある」
友人は眉を上げた。
「場所?」
「お前が行くかどうかは決めてくれたらいい。
でも……俺は行って欲しい神社があるんだよ」
友人は黙って聞いている。
「そこの宮司さんに、さっきの話を聞いてもらえ。
多分大丈夫だと思うけど……お前が心配だよ」
俺はそう言いながら、
ジョッキの水滴を指でなぞった。
「宮司さんには、明日の朝イチで連絡入れとくからよ」
普段の友人なら、こういう話は鼻で笑って終わりだ。
“そんなの気のせいやろ”って言って、絶対行かないタイプだ。
だが、その日は違った。
友人はしばらく黙って考え、
ゆっくりと息を吐いて言った。
「……わかった。行くわ」
その顔は、不思議と晴れやかだった。
何かを手放したような、
あるいは、何かに区切りをつけたような。
俺はその表情を見て、
胸の奥が少しだけ軽くなった。
「そうか。なら、安心したわ」
そう言いながら、
久しぶりにゆっくりと酒を飲んだ。
友人も、どこか穏やかな顔で笑っていた。
その夜は、
怪談の余韻を抱えながらも、
どこか懐かしいような、
静かで温かい時間が流れていった。




