冬のソロキャン7
「なんかな、俺ちょうどトイレに背を向けるように車置いてさ。
あっちから山の吹き降ろしがあるから、車で壁にしてたんだけどよ。
そしたら向かいのサイトに向く形になるんだよ」
友人はジョッキを軽く揺らしながら続けた。
「だから、そっち向いてると絶対目に入る位置にいるんだよな、あの子。
気にしないようにしながら天ぷら作って、揚げたて食いながら米炊いて天丼にしてよ。
やっぱ地のものの天ぷらは旬ってこともあって美味くてな」
「お前、キャンプで天丼作るやつ初めて見たわ」
「うるせぇ。うまいもんはうまいんだよ」
軽口を叩きながらも、友人の表情はどこか曇っていた。
「で、向かいのねぇちゃんも飯してんだけどよ……カップ麺だったんだよ。
まぁそれはいいんだけどよ」
友人はそこで少し声を落とした。
「なんか……食ってる最中もずっと周りキョロキョロしてんだよな。
落ち着かんっていうか……“誰か探してる”みたいな感じでよ」
その言葉に、俺の胸騒ぎがまたひとつ強くなる。
「……なんかあったんか、その子」
「それがよ。最初は初心者で不安なんかなって思ってたんだけど……
今思えば、あれ……なんか違ったんよな」
友人は一度息を吐き、ジョッキを置いた。
「でな、あまりに不審だったからよ。
“どうしたの?”って声かけたんだよ」
その瞬間、友人の声のトーンがわずかに沈んだ。
店内のざわめきが遠く感じるほど、空気が少しだけ重くなった。
「そしたら、女の子がさ、“大丈夫です”って言うんだよ」
友人はその言い方を真似するように、少しだけ声を細くした。
「いや、ちょっとおかしいだろ?
あんなにキョロキョロして、落ち着かん感じ出してたのにさ」
俺は思わず口を挟んだ。
「まぁ……確かに“大丈夫です”の顔じゃねぇよな」
「だろ?だからよ、つい言っちまったんだよ。
“いや、挙動がおかしいぜ。なんかあんのか?”って」
友人は苦笑いしながらも、どこか気まずそうにジョッキを指でなぞった。
「お前、昔から変なとこで世話焼きだよな」
俺がそう言うと、友人は肩をすくめた。
「いや、あれは世話焼きとかじゃねぇって。
なんか……放っとけん感じだったんよ。
あの時のあの子、マジで“誰かに追われてる”みたいな顔してたんだよ」
その言葉に、胸の奥のざわつきがまたひとつ強くなる。
友人は続けた。
「でよ、“大丈夫です”って言ったあとも、
なんか……俺の後ろの方ばっか見てんだよ」
「後ろ?」
「そう。俺のサイトの方じゃなくて……もっと奥。
トイレの方でもなくて……なんか、山の方」
友人はそこで一度言葉を切り、
焼き鳥をつまむ手が、ほんの一瞬だけ止まった。
「……あの時点で、なんかおかしかったんだよな…」




