子供の失敗8
息子くんがタオルで髪を拭きながら近づいてきたので、
俺は少ししゃがんで目線を合わせた。
「そういやな、君とは赤ちゃんの時に会ってるんやで」
「えー、絶対うそやん」
即答で返ってきた。
その“うそやん”が妙に素直で、思わず笑ってしまう。
「ほんまやって。ほら」
スマホを取り出し、
昔、友人に抱っこさせてもらった時の写真を開く。
小さな手、小さな顔。
今の息子くんとは似てるけど、まだ輪郭が丸い。
「この赤ちゃんが、君や」
画面を見せると、
息子くんは「えっ……」と声を漏らし、
少しだけ照れくさそうに笑った。
「大きなったなぁ。
親戚のおっちゃんみたいやけど、ほんまにびっくりしたわ」
息子くんはタオルをぎゅっと握りながら、
「へへ……」と小さく笑う。
その反応があまりにも素直で、
この家の空気の重さを一瞬だけ忘れそうになる。
「なあ、君が大きなってるから、
おっちゃんほんま驚いたわ」
そう言いながら、
できるだけ柔らかい声で続けた。
「最近、何して遊んでるん?
よかったら教えてーや」
息子くんはぱっと顔を上げ、
嬉しそうに口を開きかけた。
その無邪気さが、
この家に漂っていた重さとはまるで別物で、
逆に胸の奥がざわついた。
写真を見て少し照れた息子くんが、
まだこちらを興味深そうに見ている。
俺は軽く笑いながら言った。
「なあ、髪ちゃんと乾かしたら、
君のお部屋でちょっとお話、聞かしてくれるかな?」
息子くんはタオルを肩にかけたまま、
ぱっと顔を明るくした。
「いいよー!」
その返事があまりにも元気で、
奥さんが思わずこちらを見る。
“大丈夫なんですか……?”
そんな表情。
俺が軽く頷くより先に、
友人が奥さんの肩に手を置いて言った。
「大丈夫や。
ちょっと話させてやってくれ」
奥さんはまだ少し不安そうだったが、
息子くんの無邪気な笑顔に押されるように、
小さく息を吐いて頷いた。
「髪、ちゃんと乾かしてからね」
「はーい!」
息子くんはタオルを振り回しながら、
自分の部屋へ走っていった。
その背中を見送りながら、
俺は友人に目だけで合図を送る。
今のところ、普通の子供や。
でも、聞いてみんと分からん。
友人は小さく頷き返した。




