子供の失敗6
玄関前に着くと、
外観は以前来た時とほとんど変わっていなかった。
けれど、どこか印象が違う。
照明の明るさは同じはずなのに、
家全体が少し暗く見える。
なんだろうか……
陰気さが滲むような、
空気がわずかに沈んでいるような感じがあった。
以前来た時は、
こんな気配なんて一切なかったはずだ。
友人が鍵を開け、
「入ってくれ」と小さく言う。
靴を脱いで家に上がると、
リビングへ案内された。
奥さんが立っていて、
こちらを見た瞬間に軽く頭を下げた。
「すみません……夜遅くに。
こちらにどうぞ」
声は落ち着いていたが、
顔色はかなり疲れていた。
目の下の影が深く、
数日まともに眠れていないのが分かる。
リビングの隅には息子くんがいて、
こちらをじっと見ていた。
“誰だろう、このおっちゃん”
そんな顔だ。
俺は少ししゃがんで目線を合わせる。
「こんばんは。
君のお父さんの友達だよ。
夜遅くにごめんな」
そう言うと、
息子くんは一瞬だけ考えるような顔をしてから、
「……お父さんにも友達いたんだ」
と、ぽつりと言って笑った。
奥さんが「あんたね……」と苦笑し、
友人は「おい」と小声で突っ込んだ。
どうやら、
少なくとも俺の顔を見て怖がるような様子はない。
そのことに、
ほんの少しだけ胸を撫で下ろした。
ただ、
この家の空気の重さは、
やはり気のせいではなかった。
息子くんは奥さんがお風呂に入れることになり、
リビングには俺と友人だけが残った。
その間に、順序よく話を聞くことにした。
友人は、少し肩を落としたまま話し始めた。
「時期は……だいたい1週間前やな。
夜中にな、ゴソゴソって何かの音がして目ぇ覚めたんよ」
「ほう」
俺は相槌を打つ。
「最初は猫でも入ったんか思ったんやけど……
見たら、息子が四つん這いで……
まるで獣みたいに唸り声あげててよ」
友人はそこで一度、言葉を切った。
思い出すのも嫌なんだろう。
「んでな、無理矢理捕まえてやめさせようとしたら……
噛まれたんだよ」
袖をまくると、
手首のあたりに歯形の痕が薄く残っていた。
「それから毎晩や。
同じようなことするんよ。
だいたい……2時前くらいやな」
友人の声は疲れ切っていた。
奥さんの顔色が悪かった理由も、これで分かる。
俺は、話の内容よりも
“1週間前” という言葉に引っかかった。
「……1週間前、か」
「ん?」
友人が顔を上げる。
「その頃にな、何か変わったことなかったんか?
家のことでも、息子のことでも、
外での出来事でもええ。
なんでもええから」
友人は少し考えるように視線を落とした。
「……1週間前……」
そのまま黙り込む。
沈黙が、
この家の空気をさらに重くした。




