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子供の失敗5

車に乗り込み、エンジンをかける。

メーターの光がぼんやりと浮かび上がって、

車内の静けさが逆に落ち着かない。

なかなか深刻そうな状況だが、どうしたものか……

そんなことを考えながら、しばらく暖気する。

こういう時は、

いつもと違う音楽の方が気が紛れる気がした。

昔よく聞いていた、洋楽テイストのボカロを選んで再生する。

テンションと不安を、

どちらも均等に押し殺すような音量にした。

1時間はかからない距離だが、

夜の時間帯なら道も空いているだろう。

早ければ40分ほどで着く。

手土産でも持っていくべきか一瞬考えたが、

状況はそんな雰囲気ではない。

むしろ急ぐ方がいい。

信号の少ない道を選び、

淡々と車を走らせる。

音楽だけが一定のリズムで流れ、

その裏で、さっきの友人の声が何度も頭の中で反芻された。


あの疲れた声は、冗談でも大げさでもない。


そんな確信が、

アクセルを踏む足を自然と少しだけ重くした。

やがて目的地の近くに着き、

一番近いコインパーキングに車を入れる。

エンジンを切ると、

急に静けさが戻ってきて、

さっきまでの音楽が嘘みたいに遠く感じた。

「着いたで」

そうメッセージを送ると、

数十秒も経たないうちに既読がつき、

すぐに返事が来た。


「今行く」


その言葉通り、

駐車場の入口の方から、

あいつが小走りでこちらへ向かってくるのが見えた。

街灯に照らされたその顔は、

思っていたよりもずっと疲れていた。

「よう、大丈夫か?」

駐車場の入口まで歩いてきた友人に声をかける。

「まぁ……なんとか、な」

言葉の途中で少し詰まる。

“なんとか”という割には、

目の下の影が深い。

「奥さんの許可は取れてる?」

念のため確認すると、

「ああ。納得してる。

むしろ……来てくれて助かるって言うてた」

その言い方に、

家の中の空気の重さが透けて見えた。

お子さんに会うのは、生まれた時以来だ。

まさかこんな形で会うとは思わなかった。

歩き出しながら、

自分の目付きが悪いのは自覚しているので、

少しでも空気を軽くしようと軽口を叩く。

「お前の子供、俺の顔見て泣かんやろな?」

そう言って、友人の肩をぽんっと叩いた。

友人は一瞬だけ驚いたように目を瞬かせ、

それから、ほんの少しだけ笑った。

「泣くかいな。俺の息子やぞ」

その笑いは短かったが、

確かに“笑い”だった。

よかった。

まだ、この程度の冗談は通じる。

そう思いながら、

二人で並んで家へ向かった。

夜風が少し冷たくて、

その冷たさが、

これから向かう家の空気を

余計に想像させた。

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