子供の失敗2
長話になりそうな気配を感じて、
机の端に置いていたイヤホンマイクを手に取った。
普段なら、あいつからの連絡なんて
「子供がまた風邪ひいてさ」
「嫁さんが実家帰っててバタバタでよ」
そんな軽い話ばかりだ。
でも今回は違う。
メッセージの短さと、
その裏にある“言いにくさ”みたいなものが気になった。
イヤホンを耳に差し込み、
軽く息を整えてから通話ボタンを押す。
「もしもし、久しぶりやな。
とりあえず、どうしたんや?」
少し間があって、
電話の向こうで息を吐く音がした。
「ああ……久しぶり。悪いな、急に」
「いや、ええよ。なんかあったんか?」
「……実はさ、子供が夜に変な行動するようになってな」
「変な行動?」
自然と声が低くなる。
あいつは続ける前に、また小さく息を吸った。
「うん……あいつも怖がっちまってさ。
ちょっと参ってるんだよ」
“あいつ”というのは奥さんのことだろう。
普段は肝が据わってるタイプなのに、
その彼女が怖がるというのは珍しい。
「そうなんか。
まあ、子供って時々わけわからんことするしな。
どんな感じなん?」
少しでも軽く聞こえるように、
あえて柔らかい言い方をしてみる。
すると、電話の向こうで
あいつが言葉を選ぶように黙り込んだ。
「……お前さ、昔からちょっと変わった話とか、
怪談とか好きだったろ?」
「まあ、好きやけどな。
それが今回の相談に関係あるんか?」
「ある。っていうか……
お前にしか聞けんと思って」
その言い方が妙に引っかかった。
まるで、
普通の家庭の悩みじゃない
と言っているようだった。
「で、どんな行動なんや?」
促すと、
あいつはようやく重い口を開いた。
「なんかさ……よくわからん行動っていうか……
四つん這いで這い回る感じでよ」
言い終えた瞬間、
電話の向こうが一瞬だけ静かになった。
その沈黙は、
“言ってしまった”ことへの戸惑いにも聞こえた。
「……四つん這いで?」
俺が繰り返すと、
あいつはすぐに返してきた。
「いや、違うんだよ。
ただのハイハイとか、そういうのじゃなくてさ。
説明がむずかしいんだけど……
なんか、普通じゃないっていうか」
声の端に、
言葉にできない“困惑”が滲んでいた。
「なるほどな。
まあ、落ち着いて話してみ。
順番に聞くから」
そう言うと、
あいつは小さく「助かる」と呟いた。
その声が、
妙に疲れていた。




