過去との会合 1
親の転勤で、僕はあの町を離れた。秘密の場所は結局見つからないまま、記憶の奥に沈んでいった。
それから十数年。二十歳になった僕は、一人旅を好むようになった。
見知らぬ土地を歩き、過去と現在を重ね合わせるのが好きだった。
ある日ふと思い立ち、小学生時代を過ごした町を訪れることにした。
駅を降り立つと、懐かしさと違和感が入り混じる。転校前にできたショッピングセンターは、当時は巨大な迷宮のように感じていたのに、今の目で見ると少し小さく、窮屈にさえ思えた。
「こんなに狭かったんだな……」
思わず口に出す。子供の頃の記憶と現実の差が、妙に心をざわつかせた。
センターの周囲を歩きながら、昔の道を探す。ランドセルを背負って駆け回った通学路、駄菓子屋へ続く坂道、友達と笑い合った公園。
記憶の断片を拾い集めるように歩いていると、ふと母校の裏へと足が向いた。
そこには、ビワの木がまだ立っていた。
枝は少し伸びすぎていて、葉は濃く茂り、冬の光を受けて鈍く揺れている。子供の頃、友達と背伸びして実を取ろうとしたことを思い出す。甘酸っぱい匂い、先生に見つかって叱られたこと、そして笑いながら逃げた夕方。
「まだ残ってるんだな……」
懐かしさが胸に広がり、時間が巻き戻るような感覚に包まれる。
そのまま校舎の裏手から町を巡ると、視界の端に細い小道が見えた。雑草に覆われ、舗装も剥がれかけている。けれど確かに、あの頃の小道がそこにあった。
その瞬間、胸の奥がざわめいた。目が離せない。まるで呼ばれているように、視線が小道に吸い寄せられる。風が吹き抜けるたび、草が揺れ、奥へ奥へと誘うように道が開いていく。
「……ここだ」
声に出した途端、足が勝手に前へ進みそうになる。十数年の時を越えて、記憶と現実が重なり合う瞬間。
僕は立ち止まり、しばらく息を整えた。けれど視線はどうしても小道から離れられない。
秘密の場所は、まだこの町のどこかに眠っているのかもしれない。




