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お茶の香りと謎のお客さん5
店主さんの言葉に、二人で顔を見合わせて首を傾げた。
「守り神様って……そんなこともあるんやな」
「ほんまやね。面白いなあ」
笑いながら話していたが、胸の奥に小さなざわつきが残った。
ふと、ある妖怪の名前が頭をよぎる。
ふらっと人の家に現れ、茶を飲んで、気づけばいなくなる…
ぬらりひょん。
そんな話をどこかで聞いた覚えがあった。
もちろん、ただの思いつきだ。
そう自分に言い聞かせながら、お代わりのお茶を飲み干す。
お会計を済ませ、靴を履いて玄関を出ようとした時だった。
耳元で、あの老紳士の笑い声がした気がした。
ほんの一瞬。
風の音に紛れたような、低く柔らかい笑い声。
思わず振り向くと、店主さんが暖かい笑顔を向けてくれた。
「ありがとうございました。またどうぞ」
縁側の端には、もう誰もいない。
湯呑みも片付けられ、ただ静かな光だけが差し込んでいた。
「……不思議な体験もあるもんやな」
そう呟きながら、俺たちは店を後にした。
山の空気は少し冷たく、けれどどこか心地よかった。
帰り道、車の窓の外を流れる景色を眺めながら、
あの老紳士の笑みが、ふと頭に浮かんだ。




