古民家の記憶後日譚
内見を終えてから数日、
特に変わったことは何もなかった。
ただ…
天袋の“顔認証”だけが、
頭のどこかにずっと引っかかっていた。
あれは、何を“顔”だと認識したんだろう。
空っぽの暗がりに、
カメラが勝手に反応する理由なんてないはずだ。
気になって仕方がなくなり、
休日に図書館へ向かった。
古い文献や、日本家屋に関する資料を片っ端から読み漁る。
江戸、明治、大正……
古民家の構造や、武家屋敷の間取り、
天袋や押し入れの用途について書かれたものを探した。
何冊目だっただろうか。
江戸時代の武家屋敷に関する文献を開いた時、
ページの端に小さく書かれた一節が目に留まった。
天袋の謂れ。
その言葉を見た瞬間、
胸の奥がひやりと冷えた。
読み進めると、
そこにはこう書かれていた。
「……戦の折、敵将の首を人目につかぬよう
床の間の上に設けた“袋”に納めたという。
これを天袋と呼ぶ地方もあった。」
その一文を読んだ瞬間、
背中にじわりと汗が滲んだ。
天袋は、
“物をしまう場所”ではなかった時代があった。
床の間の上、
まさに、あの古民家の天袋の位置だ。
文献には続きがあったが、
紙が擦れて読めなかった。
「……首は、目線より上に置くべし。 ……下に置けば祟り……」
そこから先は、
文字が完全に消えていた。
でも、
読めなくても分かってしまった。
あの天袋が、
何を“顔”だと認識したのか。
そして、
営業の二人がなぜ青ざめていたのか。
ページを閉じた瞬間、
図書館の静けさがやけに重く感じられた。




