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古民家の記憶5

天袋には何も残置物がなかった。

空っぽの木箱のように、ただ暗がりがあるだけだ。

押し入れの中には、何枚かの座布団と、布団一式。

古い家にしては綺麗に畳まれていて、

つい最近まで誰かが使っていたようにも見える。

その瞬間、胸の奥に小さな違和感が生まれた。

理由は分からない。

ただ、押し入れの前に立っていると、

背中の皮膚がじわりと粟立つ。

なんとなく、デジタルカメラを構えた。

癖のようなものだ。

こういう時は、写真に何か“写る”ことがある。

ピピッ、とピントが合う音がした瞬間、

背筋に冷たいものが走った。

天袋に、顔認証の四角い枠が浮かんでいた。

空っぽのはずの天袋に。

何もない暗がりに。

(……なんでだ)

息が詰まる。

シャッターを切る気には到底なれなかった。

カメラをそっと下ろし、

何事もなかったふりをして押し入れを閉めた。


「……内見、これで大丈夫です」


自分でも驚くほど落ち着いた声が出た。

営業の二人は、ほっとしたように小さく息を吐いた。

それ以外には、特に変わったことはなかった。

ただ、家全体に“使われていない時間”が沈殿しているような、

そんな静けさだけが残った。

帰る前に、営業さんに築年数を聞いてみた。

男性が少し言いにくそうに答える。

「……明治の、初め頃ですね。

 正確な記録は残っていないんですが」

明治。

百年以上前の家だ。

「なるほど……ありがとうございました」

そう言って頭を下げると、

二人は揃って深く会釈した。

その動きが妙に揃っていて、

最後までどこかぎこちなかった。

古民家を後にし、

夕方の冷たい空気の中を歩きながら、

さっきの“顔認証”の四角い枠が頭から離れなかった。

あれは、

いったい何を“顔”だと認識したんだろう。

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