古民家の記憶4
そういえば、内見なのに営業さんがほとんど何も説明しない。
普通なら、築年数だとか補修歴だとか、
水回りの状態なんかを一通り話してくれるはずだ。
不思議に思いながら、こちらから
部屋の状態や水道・ガス・電気といったインフラについて尋ねていくと、
二人は揃ったように「問題ありません」とだけ答えた。
声は丁寧なのに、どこか“言わされている”ような硬さがある。
(ふむ……何故こんなに格安なんだ?)
築年数はたしかに古い。
天井も今の家より低く、
太い梁と大黒柱が、
この家が長い時間を生きてきたことを物語っている。
だが、特に酷いところは見当たらない。
雨漏りの跡もないし、床も沈まない。
むしろ、古い家にしては手入れが行き届いている。
そんなことを考えながら歩いていると、
床の間のある部屋にたどり着いた。
部屋に入った瞬間、
空気がひとつだけ変わった気がした。
温度というより、
“空気の密度”が違う。
床の間には何も置かれていない。
ただ、掛け軸が掛けられていたのだろう、
四角く日焼けした跡だけが残っている。
その跡が、まるで“そこに何かがいた”痕跡のように見えた。
試しに写真を撮ってみた。
シャッター音がやけに響く。
液晶には特に変わったものは写っていない。
見たままの、古い和室だ。
天袋と押し入れがあるのに気づき、
「開けてみてもいいですか」と言おうとして
営業の二人へ振り返った。
二人とも、青い顔で立ち尽くしていた。
さっきまでの営業スマイルは完全に消えていて、
まるで“そこに近づきたくない”と言っているような表情だった。
男性は唇を噛み、
女性は指先をぎゅっと握りしめている。
「どうかされましたか?」
そう聞くと、男性の営業さんが
喉の奥で言葉を押し出すように答えた。
「……いえ、なんでもないですよ」
声が震えていた。
女性の方も、引きつった笑顔のまま小さく首を振るだけだ。
「開けてみても?」
そう重ねて聞くと、
二人は一瞬だけ視線を合わせた。
その短い沈黙が、
この部屋の空気をさらに重くする。
そして、男性が小さく息を吸って言った。
「……お客様が開けられるなら、どうぞ」
その言い方は、
“自分たちは絶対に開けたくない”
と告げているようにしか聞こえなかった。
部屋の空気が、
さっきよりも冷たく、
深く沈んでいく。
押し入れの前に立つと、
木の匂いに混じって、
どこか懐かしいような、
しかし説明できない匂いが微かに漂っていた。




