古民家の記憶1
その日、特に目的もなく不動産サイトを眺めていたら、妙に広いくせにやけに安い古民家物件が目に入った。
残置物あり、と書かれていたが、それにしても破格だ。
買うつもりなんて全然ない。
ただ、昔から変わった間取りとか、古い家の写真を見るのが好きで、気づけばそういう物件ばかり探してしまう。
不動産屋さんには申し訳ない気もするけど、「将来家を持つ時の勉強だし」と自分に言い訳しながら、つい内見してみたくなった。
築年数不詳。敷地はやたら広い。古民家。残置物あり。そして、どう考えても安すぎる値段。
写真を開いた瞬間、胸の奥がざわついた。古い木の色、歪んだ柱、暗がりに沈む座敷。どれも“古民家らしい”はずなのに、どこか“写ってはいけないもの”の気配があるように見えた。
もちろん、買うつもりなんてない。ただ、昔からこういう古い家を見るのが好きで、間取り図を眺めるだけでも妙に落ち着く。
気づけば内見依頼の電話番号を押していた。
二コールほどで電話がつながった。
「はい、○○不動産です」
声は明るいが、どこか急いているようにも聞こえる。
「あの、サイトに載っていた古民家の件で……内見ってできますか」
言い終わる前に、営業さんは食い気味に返してきた。
「できますよ。いつがよろしいですか」
あまりにも早い。こちらが驚くほどの二つ返事だ。
「えっと……じゃあ、明日の午後とか」
「大丈夫です。では現地でお待ちしています。住所は」
段取りは驚くほどスムーズで、まるで“誰かが来るのを待っていた”みたいな勢いだった。
電話を切ったあと、胸の奥に小さな違和感が残った。古民家の写真をもう一度見返すと、さっきよりも暗く見える気がした。
あの家、本当に“残置物あり”だけなんだろうか。
そんな疑問が、じわりと背中を冷やした。




