正月休みの終わりに6
「まぁ、怪談蒐集趣味の勘やな」
そう軽く言って、俺は友人に財布を持ってきてもらうよう頼んだ。
ただ、その前にひとつだけ確認する。
「……彼女さん、ちょっとキッチンに移動してもらえる?
なんやったら俺がそれ持って外に出るけど、どうする?」
彼女さんは一瞬、怯えたように目を揺らした。
「……1人になるのが……怖いんです。
でも……ここにいたら……
あなたが財布を触るところを見てしまうし……
それは……なんか……悪い気がして……」
“離れたくない恐怖”と
“巻き込みたくない気持ち”
その両方が混ざった声だった。
友人がそっと肩に手を置く。
「キッチンでええやろ。俺はここにおるから」
彼女さんは小さく頷いた。
その頷き方は、
“見えなくなるのは怖いけど、ここにいるのも怖い”
そんな揺れを含んでいた。
彼女さんがキッチンへ移動し、
友人が立ち上がる。
「ほな、取ってくるわ」
その背中を見送りながら、
俺はふと口を開いた。
「……ああ、頼むわ」
友人は短く頷き、和室へ向かった。
襖に手をかける。
その瞬間、
土のような湿った匂い
古い井戸の底みたいな冷たさ
そして、
鉄のような、錆びた金属の匂い
それらが混ざり合った“重い空気”が、
襖の隙間からふわりと漏れ出した。
俺は心の中で思った。
これは、ヤバいな。
だが、顔には出さない。
こういう時こそ、平然としている方がいい。
友人は中に入り、
何かを探るようにしばらく沈黙が続いた。
やがて、足音が戻ってくる。
襖が閉まり、
友人がリビングへ戻ってきた。
そして、
新品のはずなのに、どこか“古びた気配”をまとった財布が、
そっと俺の目の前に置かれた。
その瞬間、
空気がひとつ、深く沈んだ気がした。




