子供の頃の不思議体験 1
この話は、時代的にかなり昔の話です
全体通しておおらかな時代で、現在の倫理観で見ればダメなこともあるかと思いますがそこは昔の話としてご了承ください
夕方前、僕ら三人はランドセルを放り投げるようにして走り出した。
「今日は川じゃなくてさ、あの細い道行こうぜ!」
「えー、絶対迷うって!」
「チョークあるから大丈夫だって!」
電柱に矢印、石垣に記号。子供じみた落書きを残しながら、知らない路地を進む。笑い声が重なり、道はどんどん人の気配を失っていく。
やがて、草むらの奥に影が見えた。
「……あれ、家?」
「窓ガラス割れてるし、誰も住んでないんじゃない?」
「うわ、廃屋だ!入ろうぜ!」
玄関の前で、僕らは一瞬立ち止まった。
「でもさ、怒られないかな?」
「誰に? 人いないじゃん!」
「いや、幽霊とか出たらどうする?」
「出たら逃げればいいじゃん!」
わちゃわちゃと押し合いながら、誰が先に入るかで揉める。
「じゃあジャンケンで決めよう!」
「負けたやつが先頭な!」
「えー!ずるい!」
結局、三人同時に玄関を押した。軋む音が響き、薄暗い室内に足を踏み入れる。埃の匂いと湿った木の匂いが鼻をついた。
「うわ、暗っ!」
「でも広いじゃん、ここ秘密基地にしようぜ!」
「絶対誰にも言うなよ!」
笑い声が壁に反響する。庭から吹き込む風が布切れを揺らし、まるで誰かが覗いているように見えた。けれど僕らは気にせず走り回り、チョークで床に落書きをした。
やがて空が赤く染まり、帰り道を急ぐ時間になった。
「明日も来ような!」
「秘密の場所だぞ!」
そう言い合って、印を辿りながら帰路についた。
翌日、同じ道を辿っても、その廃屋はどこにも見つからなかった。




