初めての1人夜勤2
見回りは特に問題なかった。
機械は全部止まっていて、工場は昼間とは別の場所みたいに静かだった。
エアーコンプレッサーの低い唸りだけが、ずっと耳の奥にまとわりついている。
計器室に戻って、椅子に腰を下ろし、一息ついた時だった。
フフッ。
子供が笑うような声が、すぐ後ろで聞こえた。
「……え?」
慌てて振り返るが、誰もいない。
計器室の扉も閉まっている。
そりゃそうだ。
ここは工業地帯のど真ん中。
夜中の2時を回った時間に、子供なんているはずがない。
そう思った瞬間、今度は廊下のほうから音がした。
ぺた……ぺた……ぺた……
裸足の子供が歩くような、軽い足音。
「……嘘やろ」
急いで電気をつけて廊下を確認するが、誰もいない。
床も乾いていて、足跡なんてもちろん残っていない。
怖い。
でも、もし本当に子供が迷い込んでいたら危ない。
不審者でも困る。
そう思って、計器室の奥にある工具箱から大きめのスパナを一本手に取った。
廊下、事務所、休憩室、更衣室、トイレ、
順番に確認していくが、どこにも人の気配はない。
「……工場側か?」
ヘルメットをかぶり、もう一度見回りに出る。
機械の影が長く伸びている。
金属の冷える音が、時々ピシッと鳴る。
コンプレッサーの唸りが、さっきより大きく聞こえる気がする。
でも、誰もいない。
不思議に思いながら休憩室に戻ると…
普段使っているマグカップから、湯気が立っていた。
「……え?」
その日はコーヒーなんて入れていない。
そもそも、夜勤中は眠気覚ましに水ばかり飲んでいた。
恐る恐る近づくと、確かに淹れたての匂いがする。
とりあえず、一口飲んでみた。
……俺好みの甘さだった。
誰が淹れたのか分からない。
でも、不思議と怖くはなかった。
飲み終えて、給湯室にカップを置きながら、なんとなく言ってみた。
「……ありがとう」
その瞬間。
フフッ。
さっきと同じ、子供の笑い声が、すぐ耳元で聞こえた。




