初めての1人夜勤1
これは、社会人になり、やっと一人前として夜勤を任されるようになった頃の、不思議な話だ。
その日は、昼間の仕事が順調で、機械も早めに停止できた。
工場の騒音が一気に消えると、耳の奥がスンと静かになったような気がした。
「お前、今日ひとりやろ?」
帰る前、先輩がニヤニヤしながら声をかけてきた。
「はい。まあ、なんとかなるっすよ」
「ここな、夜ひとりやと変な音するぞー」
「また脅かすんやめてくださいよ」
「いや、マジやって。俺も最初の時ビビったからな」
冗談半分のつもりなんだろうけど、妙に真顔で言うから、笑いながらも、胸の奥に小さな棘みたいなものが残った。
0時過ぎ。
電気、水道の計量を終えて、パソコンに打ち込む。
別の職場から数量の報告が来て、それも入力して、
あとは朝まで見回りをするだけになった。
工場は、機械が全部止まると本当に静かだ。
昼間は気づきもしないのに、
エアーコンプレッサーの「ブゥーン……」という低い稼働音だけが、
やけに耳にまとわりつく。
機械の熱が引いていく時の金属の収縮音が、
時々、ピシッ……と遠くで鳴る。
休憩室に戻ると、蛍光灯が少しだけチラついた。
普段なら気にも留めないのに、夜勤の静けさの中だと、そのわずかな明滅が妙に気になる。
「……こんな静かやったっけ」
思わず独り言が漏れた。
見回りに出ると、通路の蛍光灯が一本だけ、
他よりワンテンポ遅れて点いた。
パッ……パッ……パッ……チッ。
その“チッ”という点灯の音が、やけに生々しく聞こえる。
機械の影が長く伸びている。
昼間はただの設備なのに、夜は妙に“形”が気になる。
エアーコンプレッサーがまた唸り始めた。
さっきより少し大きく聞こえる。
ブゥゥゥゥゥン……。
その低い振動が、床を通して足元に伝わってくる。
「……静かすぎるのも、落ち着かんな」
そう思いながら、工場の奥へ歩いていった。
この時点では、まだ何も起きていない。
ただ、いつもと同じ工場のはずなのに、
“何かが足りないような、逆に何かが余っているような”
そんな妙な静けさだけが、ずっとまとわりついていた。




