雪山での恐怖体験 後日譚
友人はグラスを置き、少し間を置いてから続けた。「……あれからしばらくして、夏にその近くを通ることがあったんだ。怖い思い出を払拭したくて、もう一度道の駅に寄ってみようと思った。あの時の女性に会えるかもしれないって、半分は期待してたんだ。」
俺は頷いた。「なるほどな。確かめたくなる気持ちは分かる。」
友人は低い声で続けた。「けど、レジにいたのはお婆さんだった。白髪を後ろで束ねて、地元の人らしい落ち着いた雰囲気でさ。俺は地元のお土産を持参して、軽く挨拶したんだ。するとお婆さんが俺をじっと見て、『あんた、前にここに来たことがあるのかい?』って聞いてきた。」
俺:「……それで?」
友人:「俺は『冬にスノーボード帰りに寄ったんです』って答えた。するとお婆さんが眉をひそめて、『冬?いつ頃だい?』って。俺が日付を伝えると、お婆さんはしばらく黙り込んでから、こう言ったんだ。『その日は、この道の駅は閉まっていたはずだよ』って。」
俺は思わず息を呑んだ。「……閉まってた?」
友人は頷き、声を震わせた。「さらにお婆さんが続けたんだ。『ここは地元の婦人会が交代で店に立ってるんだよ。若い女性の店員なんて雇ってないし、見たこともない。そんな話は聞いたことがないねぇ』って。俺は混乱したよ。だって、確かに俺はあの女性と話したんだ。家鳴りまで一緒に体験したんだ。」
俺は背筋に冷たいものを感じた。
「……じゃあ、あの女性は?」
友人はグラスを握りしめ、低く答えた。
「分からない。ただ、お婆さんは最後にこう言ったんだ。『この辺りじゃ、時々“寄り添う影”の話を聞くけどね……あんた、気をつけなさいよ。雪山で見たものは、雪が解けても消えないことがあるんだから』って。」
俺は黙り込んだ。店内のざわめきが妙に遠くに感じられる。
友人は深く息を吐き、グラスの酒を一気に飲み干した。
「……それを聞いてから、俺はスノーボードをやめたんだ。もう二度と、あの白い影に寄り添われたくないからな。」
彼はどこか寂しそうに締めくくった…




