同期からの誘い1
これは、俺が社会人になりたての頃の話だ。
右も左も分からないまま仕事を覚えるのに必死で、
毎日があっという間に過ぎていった時期だった。
その日の仕事終わり、ロッカーで着替えていると、
ポケットの中でスマホが震えた。
当時はガラケーからスマホに移行し始めた頃で、
通知の音もバイブの強さも、まだ慣れない。
画面のタッチも上手くいかず、誤操作ばかりしていた。
画面を見ると、会社の同期からだった。
『今晩、●▲■ホテルに肝試しに行くんだけどよ。
お前も来ないか?』
●▲■ホテル
地元では“出る”と噂されていた廃ラブホだ。
高校の頃から名前だけは聞いたことがあった。
ただ、俺はそういう場所が本当に苦手で、
行く気なんてさらさらなかった。
慣れないチャットアプリを開いて、
指先で何度も打ち間違えながら、
「行かない」とだけ返した。
すぐに返事が来た。
『チェッ、おもろないなぁ』
画面の向こうで、同期が肩をすくめて笑っているのが
なんとなく想像できた。
「そういうとこ行くの苦手なんだよ」
そう送って、スマホをポケットにしまった。
そのまま車に乗り、彼女を迎えに行って、
コンビニで軽く買い物をして、家に帰った。
いつもと変わらない、なんでもない夜だった。
まさか、あの時の“行かない”という一言が、
あんな形で心に残ることになるなんて、
その時の俺は思いもしなかった。




