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蔵に眠るひと 15

お寺に到着すると、

ご住職は何も言わずに本堂へ案内してくれた。

本堂の空気は、

冬の冷たさとは違う、

静かで澄んだ冷気が満ちていた。

木箱は本堂の中央に置かれ、

ご住職は手鏡のときと同じように、

淡々と準備を整えていく。

やがて読経が始まった。

どれくらい時間が経ったのか分からない。

外の光が変わったのか、

本堂の空気が変わったのか、

それすら曖昧になるほど、

読経の声は深く響き続けた。

胸のざわめきが、すっと消えていく。

あの蔵の前で感じていた重さも、

掛け軸の目が残していった違和感も、

ゆっくりと溶けていくようだった。

不安感が、

まるで霧が晴れるように消えていった。

読経が終わると、

ご住職は静かにこちらへ振り向いた。

その表情は、

いつもの穏やかさのままなのに、

どこか厳しさを含んでいた。

「……少し、厳しい話をしますね」

前置きの声が、

本堂の空気をさらに引き締めた。

「あなたは、こういった物に“好かれやすい”。

 まずは、そのことをしっかり理解しなさい」

胸の奥が、ひやりとした。

「そして、恐怖心と直感を……

 できるだけ信じることです。

 あなたの場合、それが命綱になります」

ご住職の声は穏やかだが、

言葉の一つひとつが重かった。

「今回は間に合いました。

 しかし、次回も同じようにいくとは限りません」

本堂の空気が、

一瞬だけ凍りついたように感じた。


「肝に銘じて、生きなさい」


その言葉は、

叱責でも脅しでもなく、

“本気の忠告”だった。

俺は深く頭を下げた。


「……はい」


胸の奥に、

静かで確かな重みが残った。

それは恐怖ではなく、

“これからも向き合わなければならない”という

覚悟のようなものだった。

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