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蔵に眠るひと 14

読経が終わる頃には、

胸のざわつきが少しだけ落ち着いていた。

まるで、ご住職の声が蔵の奥に溜まっていた何かを

静かに押し戻してくれたような感覚だった。

ご住職は読経を終えると、

親父さんの方へ向き直り、

穏やかな声で言った。

「申し訳ありませんが……掛け軸のところまで、ご案内いただけますか」

親父さんは緊張した面持ちで頷き、

蔵の扉を開けて中へ入っていく。

そして、ご住職は俺の方へ向き直った。

「あなたはこちらでお待ちなさい」

その言い方は優しいのに、

逆らえない重みがあった。

「……分かりました」

俺は友人と一緒に蔵の前で待つことにした。

冷たい風が吹き抜ける中、

少しでも空気を軽くしたくて、

他愛ない話を始めた。

「しかし……お前の人間関係って、いつも謎だよな」

友人が苦笑しながら言う。

「まあな。

 でも、その謎の人間関係で救われることもあるんだよ」

軽口で返すと、

友人は「確かにな……」と肩をすくめた。

そんな会話をしていると、

蔵の奥から再び読経の声が聞こえてきた。

さっきよりも低く、

深く響く声。

風が止まり、空気が張り詰める。


数分後


蔵の扉がゆっくり開き、

親父さんとご住職が姿を見せた。

親父さんは木箱を抱えている。

古い木箱だが、

どこか“触れたくない”気配が漂っていた。

ご住職は俺の方を見て、

静かに言った。

「あなたは……このままお寺の方へ来てください。

 それで、すべて終わるでしょう」

その言葉に、

胸の奥がまた少しざわついた。

けれど、ご住職の声には不思議な安心感があった。

「分かりました」

親父さんと友人に挨拶をする。


「ほんま、すまんかったな……」

「気ぃつけて行けよ」


二人の言葉を背に、

俺は車に乗り込み、

ご住職の車の後ろについて

寺へ向かうことにした。

冬の夕方の空は薄暗く、

街の灯りが少しずつ点り始めていた。

これで終わる。

そう言われたはずなのに、

胸の奥のざわめきは、

まだ完全には消えていなかった。

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