蔵に眠るひと 10
住職は、呼び出し音が一度鳴っただけで電話に出てくれた。
「はい、○○寺でございます」
その落ち着いた声を聞いた瞬間、
胸のざわつきが少しだけ和らいだ。
「以前、そちらに……手鏡の供養をお願いした者なのですが」
名乗ると、住職はすぐに思い出してくれたようだった。
「覚えておりますよ。
あの鏡は、無事におさめさせていただきました。
今回は、どうされましたか?」
その丁寧で静かな声に、
俺は蔵での出来事を順を追って説明した。
掛け軸の女と目が合ったこと。
胸騒ぎが続いていること。
親父さんの話では、
“夢に出る”“欲しくなる”“飾りたくなる”という性質があること。
住職は、途中で口を挟むことなく、
ただ静かに聞いていた。
説明を終えると、
少し間を置いて、住職が言った。
「……あなたは、そういうものに“好かれる”のかもしれませんね」
その言葉が、妙に胸に落ちた。
「少し確認していただきたいのですが、
今の所有者の方──そのご家族の方々は、
その掛け軸を必要としておられますか?」
「いえ……多分、必要ではないと思います」
「もし処分されるおつもりがあるなら、
すぐに伺います、とお伝えください」
住職の声は穏やかだったが、
その奥に“急いだ方がいい”という気配があった。
「分かりました。
すぐ確認します。
折り返しますので…」
そう言って電話を切った。
スマホを握ったまま、深く息を吐く。
これは、早めに動いた方がええ。
そう確信しながら、
母屋へ向かって歩き出した。
玄関の前では、
親父さんが腕を組んで待っていた。
表情はさっきよりも硬い。
「……どうやった?」
俺は軽く頷き、
住職の言葉を伝えることにした。




