蔵に眠るひと 7
友人が母屋へ向かって声をかけると、
しばらくして、ゆっくりと足音が近づいてきた。
玄関の戸が開き、
親父さんが少し億劫そうな顔で姿を見せた。
「ああ……お前か。久しぶりやな」
「お久しぶりです。お邪魔してます」
そう挨拶すると、
親父さんは軽く笑いながら近づいてきた。
「元気にしとったか?
今回は悪かったな。
息子がまた、無理言うたんやろ?」
その言い方は、
昔から知っている近所の大人の、
あの柔らかい感じそのままだった。
こちらもつられて笑いながら、
「まあ、ええんですけどね」と返す。
ほんの何気ない流れで、
俺は蔵の中で見た掛け軸の話をした。
「ああ、そういえば……
奥の間に掛け軸ありましたよね。
あれ、なんか由来とかあるんです?」
その瞬間だった。
親父さんの顔から、
すっと笑みが消えた。
まるで能面を貼り付けたみたいに、
表情が一切動かなくなる。
さっきまでの柔らかい雰囲気が、
一瞬で消え失せた。
友人も気づいたのか、
横で小さく息を呑んだ。
しばらく沈黙が落ちたあと、
親父さんは、
「……まあ、見られたならしゃあないか」
と、諦めたように口を開いた。
「あの掛け軸はな……
俺の曾祖父さんが、骨董市で買うてきたやつや」
声のトーンが、
さっきまでとはまるで違う。
低くて、どこか遠い。
「なんでか知らんけどな、
あれを家の床の間に飾ると……
家で変なこと起こるねん」
友人が小さく身じろぎした。
「だから、蔵に置いとる。
爺さんからそう聞いとる。
“動かすのはやめろ”って、
きつく言われとったんや」
親父さんはそこで言葉を切り、
こちらをじっと見た。
その目は、
“知ってしまった者”を見るような、
どこか諦めと警告が混ざった目だった。




