蔵に眠るひと 6
掛け軸の前でしばらく立ち尽くしたあと、
俺は振り返って友人を呼んだ。
「おい、ちょっと来てくれへん?」
懐中電灯の光が揺れる中、
友人が奥の間まで歩いてくる。
その足取りが、どこか重い。
「……なんだよ」
「この掛け軸、なんか知ってるか?
謂れとか、誰が描いたとか」
光を当てると、
友人の顔が一瞬だけ引き攣った。
「いや……知らねぇ。
こんなの、見たことねぇよ」
「親御さんとかは?
お前んとこ、代々の家やろ。
何か聞いてへんのか」
少し追求するように言うと、
友人は視線を逸らしながら、
小さく首を振った。
「分からん。
俺、蔵に入ったの……こないだが初めてなんだよ」
「初めて? お前んちの蔵やのに?」
「いや、昔から“入るな”って言われててさ。
鍵も親父が持ってたし……
今回の整理で、ようやく開けたんだよ」
その言い方が、
“知らない”というより、
“触れたくない”に近い響きだった。
蔵の中の空気が、
さっきよりも冷たく感じる。
「……まあええわ。
一旦外出よか。
親御さんに聞いてもらおうや」
「……ああ」
友人はどこかホッとしたように頷いた。
蔵の扉を閉めると、
外の空気が妙に暖かく感じた。
さっきまでの胸騒ぎが、
少しだけ和らぐ。
「親父、家にいるから……聞いてみるわ」
友人はそう言って、
母屋の方へ歩き出した。
その背中が、
どこか急いでいるように見えた。




