蔵に眠るひと 4
「とりあえず着いて早々悪いけど……蔵、行こか」
そう言うと、
友人は待ってましたと言わんばかりに、
少し焦ったような足取りで先に立った。
「お、おう。こっちや」
その急ぎ方が、
“早く案内したい”というより、
“早く済ませたい”に近いように見えた。
なんとなく違和感が胸に引っかかる。
「おいおい、藪から棒やな。
まあ、年末やし、片付けも大変なんやろけど」
軽く冗談めかして言うと、友人は振り返りもせずに、
「いや、ほんま……早めに見てもらいたくてさ」
とだけ返した。
声のトーンが妙に硬い。
母屋の脇を抜け、
裏手へ回ると、蔵が見えてきた。
二階建ての白壁に、黒い腰板。
木の梁がむき出しになった古い造りで、
ところどころに年季の入った染みが浮いている。
近づくにつれて、
蔵特有の埃っぽい匂いがふわっと鼻をかすめた。
乾いた木と、古い紙と、湿気が混ざったような、
どこか懐かしい匂い。
その瞬間、胸の奥がざわっと波立った。
理由は分からない。
ただ、
“あまり入りたくない場所”に近づいたときの、
あの独特の胸騒ぎ。
「……これは気合い入れて行かなあかんかもな」
小さく息を吐いて、
気持ちを切り替える。
友人が蔵の前で立ち止まり、重そうな木の扉に手をかけた。
扉は黒ずんだ木で、
金具はところどころ錆びている。
触れたら冷たさが指先に残りそうな質感。
「じゃあ……開けるぞ」
ギィ……と、
湿った木が軋む音が響いた。
中は薄暗く、
外の光が細く差し込んで、
埃がゆっくり舞っているのが見えた。
壁には古い木箱が積まれ、
棚には陶器や木彫りの置物が並んでいる。
奥の方は影が濃くて、
何が置いてあるのか判別できない。
空気がひんやりしていて、
外よりも温度が数度低いように感じた。
そして、その冷たさとは別に、
“何かが潜んでいるような気配”が
蔵の奥からじわりと滲んでいた。




