雪山での恐怖体験 3
俺はジョッキを置き、少し肩を落とした。
「……なるほどな。怖い話としては十分だろ。とりあえずそれで終わりか?」
友人は苦い笑みを浮かべ、首を横に振った。
「いや、続きがあってな。」
俺は思わず身を乗り出した。
「まだあるのか。」
友人:「午前中で切り上げるって決めて、受付にシーズン券を返しに行ったんだ。交換方式だから、一日券を戻してシーズン券を受け取る。その時、何気なく聞いてみたんだよ。『止まってるリフトって、今日は動かないんですよね?』って。」
俺:「……で、なんて返答だったんだ?」
友人:「受付の人はあっさり、『ええ、今日はゴンドラだけです。リフトは全部止まってますよ』って。俺はその瞬間、背中に冷たいものが走った。だって、俺が何度も見た“白い影”は、止まってるはずのリフトの降り口から現れてたんだから。」
俺は黙り込んだ。ジョッキを握る手に力が入る。
友人:「もう怖くなってさ、慌ててゲレンデから帰ることにしたんだ。平日だったから人も少なくて、せっかく空いてたのに……残念だと思いながらも、あのまま滑り続ける勇気はなかった。」
俺:「……それで帰ったんだな。」
友人:「車に乗り込んで雪道を下り始めたんだ。道路にはほとんど車がなくて、タイヤが雪を踏む音だけが響いて……それが妙に耳に残る。バックミラーを見るたびに、白い影が映るんじゃないかって思ってしまう。もちろん何もないんだけど、視線を外すとすぐにまた確認したくなる。まるで誰かが後ろをついてきてるような気配がずっと消えなかった。」
俺は背筋に冷たいものを感じた。
「……それで道の駅に?」
友人:「そう。途中の道の駅に寄ったんだ。昼前で客もまばら、駐車場はガラガラだった。缶コーヒーを買って車に戻った時……雪を踏むような音が耳に残ってる気がしてな。振り返っても誰もいない。あの時、ようやく“これは本当におかしい”って確信したんだ。」
友人はそう言って、グラスの酒を一気に飲み干した。店内のざわめきが、妙に遠くに感じられた。




