温泉街からの同行者5
『……お前の声のあとにな、また聞こえたで。
ひそ……って。』
「いやいや、怖いこと言わんでや。
ほんまに一人やって」
『分かってるって。
でも俺にだけ聞こえるの、不思議やな』
「それはそうやな……
俺にはなんも聞こえへんし」
『やろ?
でもな、さっきよりちょっとハッキリしてきてる気がするんよ』
「……なんでや。
今日、変なとこ行ってないぞ。
温泉入って、飯食って、老夫婦と喋ってただけやのに」
『いや、別に“変なとこ行った”とか言うてへんけど……
なんか、ほんまに“誰かおる”みたいな感じやねん』
「……はぁ……
とりあえず、怖いかもしれんけど、
話し相手になってくれ。頼むわ」
『ええよ。
俺も気になるしな』
車は山道を下りきり、
街の灯りが近づいてくる。
けれど、
友人の言葉が増えるほど、
胸の奥のざわつきは強くなっていった。
『……なぁ』
「なんや」
『今の……聞こえた?』
「何がや」
『“ひそ……ひそ……”って。
お前のすぐ横で言うてるみたいやった』
「……やめろって。
ほんまに怖いねん」
『いや、俺も怖いわ。
なんか、さっきより近いねん。
距離が縮まってる感じする』
「……っ」
ハンドルを握る手に力が入り、
心臓の鼓動が早くなる。
「……もうええわ。
できるだけ早く帰る。
このまま下道走るのしんどいし、
途中から高速乗るわ」
『そのほうがええかもしれん。
でも……』
「でも?」
『高速乗っても……
たぶん、止まらんと思うで』
「……どういう意味やねん」
『さっきからな、
お前が喋るたびに“ひそ……ひそ……”って聞こえるんやけど……
今はもう、ほぼずっと聞こえてる』
「ずっと……?」
『うん。
なんか、
“喋りたいのに喋られへん人”みたいな……
そんな感じの声』
「……やめろって……
ほんまに……」
高速の入口が見えてきた。
迷う余裕もなく、ウインカーを出して合流車線に入る。
アクセルを踏み込むと、
エンジン音が一段高くなり、
車は一気に速度を上げた。
けれど、
『……なぁ』
「なんやねん……」
『悪化してるわ。
今、めっちゃ近い。
お前の……すぐ横やと思う』
イヤホン越しの友人の声が、
さっきよりも低く、真剣だった。
『ほんまに……
誰かおるみたいやねん』




