温泉街からの同行者3
駐車場に着くと、夜の空気は思ったより冷たかった。
温泉の余韻がまだ身体に残っているせいか、
その冷たさが心地よく感じる。
車の前に立ち、鍵を取り出してロックを解除する。
静かな駐車場に、電子音が小さく響いた。
ドアを開けてシートに腰を下ろすと、
車内の温度がふっと身体に馴染む。
少しだけ眠気が戻ってきた。
「……ちょっと眠いな」
独り言をこぼしながら、
イヤホンマイクをスマホに差し込む。
画面には、さっき送ったメッセージの返信が届いていた。
『いいよ。通話できるよ』
通話ボタンを押すと、すぐに相手が出た。
『おつかれ。どうしたん、こんな時間に』
「夜分遅くにごめん。
ちょっと眠気きてさ。話してたら紛れるかなと思って」
『ええよええよ。暇しとったし』
エンジンをかけ、ゆっくりと駐車場を出る。
温泉街の灯りが後ろに遠ざかり、
前方には暗い山道が伸びていた。
『で、温泉どうやったん』
「めっちゃ良かった。
飯も美味かったし、老夫婦がやってる店で三時間くらい喋ってた」
『三時間!?仲良しやな』
「いや、なんか落ち着く店でさ。
煮魚がめっちゃ美味かった」
『お前だけずるいわ。
今度行くとき、俺も連れてってや』
「え、行く?あの温泉街まで?」
『行く行く。絶対好きやと思うわ、そういう店』
「じゃあまた行くとき声かけるわ」
『頼むで。ほんまにやぞ』
そんな他愛ない会話を続けながら、
車は暗い山道へと入っていく。
街灯はほとんどなく、
ヘッドライトだけが細い道を照らしていた。
『でさ、お前さ』
「ん?」
『……彼女か女友達、乗せてんの?』
「は?」
『いや、別にええけどさ。
さっきから横で誰か喋ってるみたいな声、聞こえるで』




