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温泉街からの同行者1

その日は、朝から妙に天気が良かった。

冬の空気なのに、どこか柔らかい。

家の中に差し込む光も、いつもより少しだけ暖かく感じた。

昼前になって、

ふと「温泉に入りたいな」と思った。

理由は特にない。

疲れていたわけでも、嫌なことがあったわけでもない。

ただ、湯に浸かってのんびりしたい!

そんな気分が、急に胸の中に広がった。

「……行くか」

声に出してみると、

その言葉がすっと身体に馴染んだ。

昼食を軽く済ませ、

少し横になってから支度を始める。

タオルをバッグに入れて、

財布とスマホを確認して、

上着を羽織る。

玄関の鍵を閉めると、

外の空気は思ったより冷たかった。

でも、その冷たさが逆に心地よい。

車に乗り込み、エンジンをかける。

ナビもいつも通り起動し、

特に変わったところはない。

「下道で行くか。のんびり走ろう」

そう独り言をつぶやいて、

隣県の温泉街を目的地に設定した。

道中は穏やかだった。

信号待ちのたびに、

遠くの山が少し霞んで見える。

冬の午後らしい景色だ。

「天気、悪くなるのかな」

そんなことを思いながら、

ゆっくりと車を走らせた。

二時間ほどで温泉街に着く。

昼間の温泉街は、

観光客の笑い声や土産物屋の呼び込みで賑やかだった。

その賑やかさに、

「ああ、来てよかったな」と思う。

温泉に浸かり、

身体の芯まで温まったあと、

晩ご飯はふらっと入った老夫婦の居酒屋に決めた。

「一人さんかい?」

「はい、大丈夫ですか」

「大丈夫大丈夫。ゆっくりしていきなさい」

そんなやり取りを交わし、

座敷に通される。

煮魚の匂いがふわっと漂い、

店の奥からは老夫婦の静かな掛け合いが聞こえてくる。

温泉の余韻と、

店の落ち着いた空気が心地よかった。

この時点では、

帰り道であんな“気配”に出会うなんて、

まったく思っていなかった。

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