カーナビとの深夜のランデブー1
仕事終わりに合流して、
駅前の喫茶店に入った瞬間、
女友達が手を振ってきた。
「おー、来た来た。
ひっさしぶりじゃなぁ。ほんま、あんた全然捕まらんのんじゃけぇ」
「いやいや、お前こそ忙しそうやったやん。
なんやかんやで会うん久しぶりやな」
「ほうよ。三ヶ月? 四ヶ月?
怪談の話も全然できとらんかったし」
「せやな。
……で、今日はなんかネタ持ってきたんか、って顔してるな?」
「しとるよ。
あんたが“なんかあったら話すわ”言うてから、ずっと待っとったんじゃけぇ」
その言い方が、
“怪談仲間”のスイッチを押してくる。
俺はホットコーヒーをひと口飲んでから、
少し声を落として言った。
「あるで。
てか、最近ちょっと変なことあってん」
「ほぉ〜、ええやん。聞かせぇ」
「これな、夜景撮りに行った日の話やねん」
「また夜中に山ん中行っとったん?
あんた好きじゃなぁ、ほんま」
「いや、今回は普段行くとこちゃうかったんよ。
道分からんから、行きしなも帰りしなもカーナビ入れて行ったんや」
「そりゃそうじゃろ。知らん道はナビ頼るわ」
「せやろ?
で、撮影終わって“そろそろ帰るか”思て、自宅にセットしたんよ」
「うん」
「ほんならな、来た道と全然違う道案内されてん」
女友達の表情が、すっと真面目になる。
「え、それおかしゅうない?
行きしなと帰りしなで違う道案内されるんは、まぁあるけど……
“全然違う”んは変じゃろ」
「やんな?
俺も“あれ? 元来た道って一通やったっけ?”って一瞬思ってんけど、
いや違うよなって。
でもまぁ……夜遅いし、ナビが言うならそうなんかなって思ってさ」
「分かるわぁ。夜中って判断鈍るけぇな。
人おらんし、車も少ないし、なんか“ナビが正しい”って思うてしまうんよな」
「そうそう。
で、とりあえずナビの案内に従うことにしたんよ」
女友達は腕を組んで、
「ふぅん……」と低く相槌を打つ。
その“聞く姿勢”が、
怪談仲間としての空気を一気に濃くする。
「でな、案内される道が……なんか変やってん」
「変って?」
「いや、まずな、
行きしな通った道って、街灯そこそこあって、
まぁ普通の山道やったんよ」
「うん」
「でも帰りに案内された道は、
街灯がほぼ無いねん。
真っ暗で、ハイビームにしても先が全然見えへん」
「うわ……それは嫌じゃなぁ」
「せやろ?
で、道幅もなんか狭いねん。
“こんなとこ通ったっけ?”って思いながら走っててんけど……
ナビはずっと“この先、道なりです”って言うてくる」
「ほぉ……」
「で、途中でな
“右方向です”って言われてんけど、
そこ、どう見ても“道”ちゃうねん」
女友達の眉がぴくっと動く。
「道ちゃうって?」
「なんか……
草ぼうぼうで、舗装もされてへんし、
車一台通れるかどうかも怪しい感じ」
「それ、林道とかじゃなくて?」
「いや、林道にしても荒れすぎてる。
てか、そもそも“道”って認識してええんか分からんレベル」
「……ほぉ」
「でな、ナビはそこを“右です”って言うねん」
「怖っ」
「せやろ?
で、俺もさすがに“いやいやいや”って思って、
一回車止めて地図見直したんよ」
「うん」
「ほんならな、その“草ぼうぼうのとこ”が、
ナビ上では普通の道路として表示されてんねん」
女友達は息を呑んだ。
「……それ、地図にない道じゃなくて、
“地図にだけある道”じゃろ」
「そう。
現実には無いのに、ナビにはある。
しかも“そこを通れ”って案内してくる」
「……それ、嫌なやつじゃなぁ」
「せやろ?
で、さすがにそこは行かんといて、
Uターンして別ルート探したんよ」
「うん」
「ほんならな…、
ナビが急に黙ってん」
「黙る?」
「案内が止まって、
画面だけ地図が動いてる状態。
音声が一切出ぇへん」
女友達は背筋を伸ばした。
「……それ、ほんまに嫌なやつじゃ」
「せやねん。
で、しばらく走ってたら、
急に“ルートを再検索します”って言い出してな」
「うん」
「次に案内された道が……
また来た道と違うねん」
「え……」
「で、そこもまた真っ暗で、
さっきよりも道幅狭いねん」
「……あんた、それよう行ったな」
「いや、もう戻るのも怖いやん。
で、ナビが“この先、目的地です”って言うてんけど…」
女友達がごくりと唾を飲む。
「そこ、
ただの……
行き止まりの空き地やってん」




