友人からのオモロい話4
友人は、網の上の肉をひっくり返す手を止めたまま、
少しだけ声を落として続けた。
「……それがな」
その言い方が、さっきまでと違っていた。
「先月のことや。めっちゃ見える頻度上がってきて……正直、ヤバいなぁ思ててん」
「……そんなに?」
「うん。前は目の端にチラッとやったのに、最近はな……
もう、はっきり“そこにおる”って分かるくらいになってきてて」
友人は眉間に皺を寄せた。
困惑というより、疲れが滲んでいた。
「朝起きたら足元に立ってたり、玄関のとこでこっち見てたり……
なんか、距離が近なってきてる感じやってん」
「……それは、さすがに怖いな」
「せやろ。ほんまにどうしたらええんか分からんくてな」
友人はウーロン茶をひと口飲んで、
少し間を置いてから続けた。
「……そんな時にな。
二軒隣に、スキンヘッドのおっちゃんが引っ越して来たんや」
「スキンヘッド?」
「そう。めっちゃツルッツルの。
最初は“ああ、新しい人来たんやな”くらいやったんやけど……」
友人はそこで、ふっと息を吸った。
「……しっかり見えるようになったくらいのタイミングでな。
その男の子……そのおっさんの頭に、肩車みたいに乗ってんねん」
「……は?」
「ほんでな……そのおっさんの頭、ぺちぺち叩きよるねん」
一瞬、焼肉屋のざわめきが止まったように感じた。
友人の表情は真剣そのものだった。
「……マジで?」
「マジや。
おっさんは全然気づいてへんねんけど、男の子はめっちゃ楽しそうにしててな……
なんか……“あ、行くとこ見つけたんやな”って思ってん」
友人はそこで、急に肩の力が抜けたように笑った。
「そっからは、うちから出て行ったわ。
いやぁ……良かったわー、ほんまに」
「いや、良かったんかそれ……?」
「良かった良かった。
だって、もう夜中にぽーんぽーん聞こえへんし、影も見えへんし。
静かなもんやで、今」
友人はカルビをタレにくぐらせて、ぱくっと食べた。
「うまっ。やっぱ焼肉ええなぁ」
急にいつもの調子に戻ったので、
俺もつられて笑ってしまった。
「お前……幽霊の引っ越し先、スキンヘッドのおっちゃんでええんか?」
「ええねんええねん。あの頭、絶対乗り心地ええわ。
俺のとこ来るより幸せやろ」
「知らんけどな!」
二人で笑いながら肉を焼き続けた。
さっきまでの重い空気は、煙と一緒にどこかへ消えていった。
食べ終わって店を出ると、夜風が少し冷たかった。
駅前のロータリーで、友人は手を振った。
「ほな、またな。次いつ会えるか分からんけど……元気でおれよ」
「お前こそな」
「幽霊の話、また溜まったら呼ぶわ」
「溜めんでええねんけどな」
友人は笑って、改札の向こうに消えていった。
その背中が見えなくなったあと、
ふと、焼肉屋の煙の匂いだけが残っていた。
なんとなく、
“あいつはまたどこかで変なもん見てるんやろな”
そんな気がして、少しだけ胸がざわついた。




