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友人からのオモロい話2

友人は箸を置いて、ウーロン茶をひと口飲んだ。

その仕草が、さっきまでの軽いノリとは違っていた。

「……実はな」

声のトーンが半歩だけ落ちる。

「うん」

俺も自然と姿勢を正してしまう。

「女の幽霊、あれからぱったり居らんようなってん」

「そら……まぁ、良かったんちゃうん」

「いや、最初はそう思ったんやけどな」

友人は網の上の肉を見つめたまま、言葉を探すように続けた。

「ある夜な。夜中の三時くらいやったと思う。トイレ行きたくて起きてん」

「うん」

「ほんなら、使ってない部屋あるやろ。あそこからな……ぽーん、ぽーん……って」

指で軽く机を叩いて、音の高さを再現する。

「……ボールつくみたいな音が聞こえてきてん」

「ボール?」

「そう。子どもが床で弾ませるみたいな、あの軽い音や」

焼肉屋のざわめきの中で、その“ぽーん”という音だけが妙に想像しやすくて、背中が少し冷えた。

「最初、寝ぼけてんのかな思ってん。でも、はっきり聞こえるねん。一定のリズムで」

「……そら気になるわな」

「せやろ。でな、気になって……そーっと覗いてみたんよ」

友人はそこで一度言葉を切った。

網の上の肉がじゅっと音を立てて脂を落とす。

その音が、妙に遠く感じた。

「……覗いて見たらな」

友人はゆっくりとこちらを見た。

さっきまでの軽口の気配が完全に消えていた。

「そこに……」

言いかけて、また視線を落とす。

「……いや、これはな……ちょっと説明しづらいねん」

声が少し震えていた。

友人は、ウーロン茶のグラスを指でなぞりながら言った。

「なんていうかな……時代劇とかに出てくる子供って分かるか?」

「ちょんまげの? あの、着物着て走り回ってる感じの?」

「そうそう。あんな感じの、ちっちゃい男の子がな……」

そこで一度、友人は息を吸った。

「……鞠をついてんねん」

「鞠?」

「そう。ぽーん、ぽーん……って。あの音そのままや」

「いやいやいや……待て待て。

お前ん家、そんな時代劇セットみたいな子供おらんやろ」

「おらんよ。おったら逆に怖いわ」

「いや、もう十分怖いけどな」

友人は苦笑いもせず、ただ網の上の肉をひっくり返した。

その無表情さが逆に怖い。

「でな……怖いなぁって思ってんけど……」

「そら怖いやろ。普通そこで警察呼ぶか、逃げるか、電気つけるかの三択やで」

「……とりあえず寝ることにしたねん」

「寝るんかい!」

思わず声が少し大きくなって、隣の席の客がちらっとこっちを見た。

「いや、だって……関わったらアカン気がしてん」

「いやいや、関わらんでもアカンやつやろそれ」

「せやけど、あの時はな……“見たらアカン”って、なんか直感で思ってん」

友人はそう言って、ようやく少しだけ笑った。

でもその笑いは、どこか乾いていた。

「怖いけど……寝たんや」

「寝れるメンタルすごいな」

「いや、寝たいうより……気づいたら朝やったって感じやな」

友人はそこで箸を置き、少しだけ視線を落とした。

「……でな。問題はその次の日やねん」

焼肉屋のざわめきが、急に遠くなった気がした。

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