表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/281

後輩の物件探し後日譚

後輩は、あの夜の話を聞いたあと、

数日だけ悩んでいたが、

結局、引っ越す決断をした。

驚いたのはその後だ。

「先輩……なんか、不動産屋さんが全部やってくれるって……」

後輩からそう連絡が来た時、

俺は思わずスマホを握り直した。

新しい物件の紹介。

敷金・礼金の免除。

引っ越し費用まで、

全部、不動産屋が負担すると言ってきたらしい。

理由は言わなかったそうだ。

だが、俺にはなんとなく分かった。

あの壁のことを、

あの部屋の“事情”を、

不動産屋は誰よりも知っている。

後輩は新しいアパートに移ってから、

驚くほど順調に生活しているようだ。

「最近、よく眠れるんですよ」

「仕事もなんか調子いいです」

そんな明るい声を聞くたびに、

俺は胸の奥で小さく息をついた。

後輩が落ち着いた頃、ふと思い立って、喫茶店「○△□」へ向かった。

扉を開けると、カラン、と鈴が鳴る。

マスターは新聞を畳み、

俺を見ると静かに頷いた。

「……後輩さん、無事に引っ越せたようですね」

常連の三人も、

ちらりとこちらを見て、

気まずそうに、しかしどこか安心したように頷いた。

「ええ。

 あの……先日はありがとうございました。

 おかげで助かりました」

俺が頭を下げると、

マスターはコーヒーを淹れながら言った。

「礼なんていりませんよ。

 ……あの部屋は、知らないまま住むほうが危ない」

常連の一人が、

カップを指でなぞりながら呟いた。

「次の人、長く持つといいけどな……」

その言葉に、

店内の空気が一瞬だけ沈んだ。

俺は深く息を吸い、

静かに席を立った。

「本当に……ありがとうございました」

店を出ると、

冷たい風が頬を撫でた。

後輩はもう安全な場所にいる。

それだけで十分だった。

だが、あのアパートの角部屋は、

今もあの時間になると、

静かに“2回ノック”を返しているのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ