後輩の物件探し5
後輩はカップを握ったまま、視線を落として固まっていた。
湯気がゆっくりと上がるのに、彼は一口も飲もうとしない。
俺は腕を組み、少し身を乗り出した。
「……それから毎日なってんのか」
後輩は一瞬だけ顔を上げたが、すぐに視線を落とした。
喉が動き、言葉を押し出すように答える。
「……はい。
毎晩……必ず、二回だけ……コツ、コツって」
その言葉が落ちた瞬間、
部屋の空気がわずかに冷えたように感じた。
後輩はカップを握る手に力を込め、
呼吸だけがわずかに揺れている。
沈黙が長く伸び、時計の秒針の音がやけに大きく聞こえた。
俺はため息をつき、椅子の背にもたれた。
「……仕方ねえな。
とりあえず、飯食ってけよ」
後輩は驚いたように顔を上げたが、
その表情はすぐに引きつった笑みに変わった。
「……すみません。
なんか、ほんと……すみません」
「いいって。どうせ作りかけだしな」
俺は立ち上がり、キッチンへ戻る。
火を止めていたフライパンを温め直し、
味噌汁の鍋に火を入れる。
後輩はテーブルに座ったまま、
落ち着かない様子で指先をいじっていた。
「腹減ってんだろ。
ほら、皿出してくれ」
「……はい」
後輩は立ち上がり、棚から皿を取り出す。
その動きもどこかぎこちない。
二人分の料理を盛り付け、テーブルに並べる。
湯気が立ち、味噌汁の匂いが部屋に広がる。
「ほら、食え」
「……いただきます」
後輩は箸を持ったが、すぐには食べず、
味噌汁を見つめたまま、また黙り込んだ。
「……で?
さっきの続き、なんだよ」
後輩はゆっくりと味噌汁を一口飲み、
そのまま視線を落としたまま言った。
「……あの観葉植物のことなんですけど」
「ん?」
「……あれ、不動産屋さんがくれたやつなんです。
『この部屋、日当たりいいから育ちますよ』って……
最初から、あの隅に置いてあったんです」
「へえ……」
後輩は箸を置き、
言いづらそうに続けた。
「でも……その場所……日当たり、ないんですよ。
昼でもほとんど光が入らなくて……
なんでそこに置いたのか、よく分からなくて」
後輩はそこで言葉を切り、
ゆっくりと顔を上げた。
その顔は、
“何か言いたいけど言えない”
そんなふうに、わずかに引きつっていた。
「……あの植物、
あそこに置いてからなんですよ。
壁が……鳴るようになったの」
味噌汁の湯気だけが、
静かに二人の間を揺れていた。




