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とある地方での怖い体験 後日譚

俺は御堂で助けられた夜からしばらくして、どうしても礼をしたくなった。地元の銘菓を箱に詰め、御堂の住所を記して荷物を送った。

数日後――荷物は返送されてきた。「住所不明」赤いスタンプが押されている。

「……そんなはずはない。御堂は確かにあった」不審に思い、ネットの地図を確認する。だが峠の途中に御堂など存在しない。ただの山道が続いているだけだった。

半年後。俺は再びあの町を訪れた。あの日の居酒屋を目指し、暖簾をくぐる。

「おう、兄ちゃん、久しぶりだな。また、観光か?」カウンターの常連が声をかけてきた。

「ええ……実は、峠の御堂に泊めてもらったことがあって。お礼をしたいんですが……」

「御堂?」別の常連が眉をひそめる。

「そんなもん、峠にあるわけないだろ」「そうだそうだ、あそこはただの山道だ。御堂なんて聞いたこともない」「観光客向けの作り話でも聞いたんじゃないか?」

俺は困惑し、言葉を失った。「でも……確かに泊まったんです。鐘を鳴らして……」

すると奥の方から、別の常連が顔を覗かせた。「……あんた、前にここで飲んでただろ。顔覚えてるよ。あの夜、峠に行くって言ってたじゃないか」

俺は驚いて頷いた。「そうです。あの夜です。御堂に駆け込んで、老人に助けられたんです」

常連たちは顔を見合わせ、ざわついた。「……本当に行ったのか」「だが御堂なんて……」

その時、奥から大将が静かに声をかけた。「……お前さん、本当に御堂を見たのか」

「はい。老人がいて、助けてくれました」

大将はしばらく黙り、酒器を拭きながら低く言った。「俺の親父が現役の頃は、確かに御堂があったんだ。峠を守るためにな。だが、もう何十年も前に取り壊されたはずだ」

店内が静まり返る。常連たちは顔を見合わせ、口を閉ざした。俺は背筋に冷たいものを感じながら、ただ黙って杯を握りしめた。

大将は続ける。「……あんたが見たのは、御堂そのものじゃなく、“御堂があった記憶”なのかもしれんな。峠はそういう場所だ」

俺は言葉を失い、ただ頷いた。御堂の灯り、鐘の響き、老人の声――すべてが夢のように遠ざかりながらも、確かに心に残っていた。

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