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後輩の物件探し4

後輩を玄関で迎えると、表情が固く、どこか落ち着かない様子だった。

靴を脱ぐ手つきもぎこちない。

「どうしたんだよ」

「……あの、ちょっと相談したいことがあって」

「相談? まあいい、入れよ」

後輩をテーブルへ案内し、椅子を指さす。

「とりあえず、そこ座っとけ」

「……すみません、お邪魔します」

後輩が腰を下ろしたのを確認して、俺はキッチンに戻った。

フライパンの油が温まり、味噌汁が湯気を立てていたが、

後輩の様子を見て、俺は火をすべて止めた。

包丁もまな板の上に置き、手を拭いてからテーブルへ戻る。

「コーヒーでいいか?」

「……あ、はい。すみません」

「砂糖とかミルクいる?」

「……砂糖だけ、少し」

「了解」

湯気の立つカップを後輩の前に置くと、

後輩は両手で包むように持ちながら、

視線を落としたまま固まっていた。


何か言おうとして、

やめて、

また言おうとして、

飲み込んでいる。


俺は椅子を引いて向かいに座り、

調理を完全に忘れて後輩の顔を見た。

「……で、相談ってなんだよ」

後輩は小さく息を吸い、

喉の奥で言葉を探すように、ゆっくりと口を開いた。

「先輩……こないだ、観葉植物を置いてあった壁のあたりって……覚えてますか?」

「ん? ああ、あの隅な」

後輩はカップの縁を指でなぞりながら、

視線を落としたまま続けた。

「……あの……これ気付いたの……タケルとユウスケと飲んでる時なんですよ」

「飲んでる時?」

「はい。先輩が帰ったあと……三人で軽く飲んでて。

 で……タケルが急に言ったんです」

「なんて?」

「……『おい、なんか今コツって聞こえなかった?』って」

後輩はそこで一度言葉を止め、

喉が詰まったみたいに息を飲んだ。

「最初は……上の部屋かなって思ったんですけど……

 位置が……どう考えても……あの壁の……あの隅なんですよ」

俺は完全に後輩へ意識を向け、

腕を組んで身を乗り出した。

「……それ、何回くらい聞こえた?」

後輩はカップを握る手に力を込め、

震えないように押し殺した声で答えた。

「……三人とも、はっきり聞きました。

 コツ……コツ……って……二回だけ」

「二回か」

「はい。で……タケルが『お前んち、なんかいるんじゃね?』とか言って……

 ユウスケも笑ってたんですけど……」

後輩は唇を噛み、

ゆっくりと顔を上げた。

その瞬間、

後輩の表情がわずかに引きつった。

笑おうとしたのか、怖さを隠そうとしたのか、

どちらともつかない、不自然な歪み。


「……俺だけ、笑えなかったんですよ。

 だって……音がしたの……ちょうど観葉植物の後ろの……あの壁の……あの部分からで」


後輩の頬がピクリと震え、

目の奥だけが妙に固まっていた。


「……先輩。

 あれ……なんなんですかね」


その顔は、

“もう一人では部屋にいたくない”と

無言で訴えていた。

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