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カメラバッグの謎 後日譚

女性との喫茶店での会話から、

しばらく時間が経った。

あの日、店を出たあとも、

胸の奥には重たいものが静かに沈んでいた。

娘さんの事故。

後遺症。

撮影に行きたいという願い。

そして、

俺が見た夢。

どれも一本の線で繋がっているようで、

しかしどこかで途切れているようでもあった。

ただ、理由を聞いて納得したのは確かだった。

それでも、ここで一度、この“縁”を切るべきではないか。

そんな考えが、

ふと頭をよぎった。

バッグに罪はない。

娘さんにも、もちろんない。

だが、

あの夢の連続と、

喫茶店での女性の震える指先を思い返すと、

どこかで区切りをつける必要があるように思えた。

次の週末、

懇意にしている神社へ向かった。

境内は冬の空気が澄んでいて、

鳥居をくぐった瞬間、

背中にまとわりついていた何かが

すっと剥がれ落ちるような感覚があった。

数日間、

背後に視線を感じるような気配はあったが、

特に異変が起きるわけでもなく、

夢を見ることもなかった。

神主に事情を簡単に話し、

お祓いをしてもらった。

鈴の音が頭上で鳴り、

祝詞がゆっくりと流れていく。

その間、バッグはただそこにあるだけで、

特別な反応もなかった。

ただ、祝詞の最後の一節が終わる瞬間、風もないのに

バッグの革がわずかに鳴った気がした。

ほんの一瞬。

だが、その“わずかな音”が区切りの合図のようにも思えた。

お祓いが終わったあとも、

特に大きな問題は起きなかった。

むしろ、肩の力が抜けたような、そんな感覚だけが残った。


お祓いから数週間が経った頃、

スマホに通知が届いた。

出品者の女性からだった。

開いてみると、

そこには丁寧で、

しかし抑えきれない喜びが滲んだ文章が綴られていた。

娘さんが、

「なんとか立てるようになったこと」。

そして、

「カメラを握れるようになったこと」。

その二つが、

震えるような言葉で書かれていた。

読み終えた瞬間、

胸の奥がじんわりと温かくなった。

俺はゆっくりと返信を打った。

「娘さんのカメラライフに、

たくさんの幸がありますように」

送信ボタンを押したあと、

ふと外に目を向けた。

青空が広がっていた。

雲ひとつない、

澄んだ冬の空。

その下で、

自然と顔がニヤけてしまうのを

どうしても止められなかった。


「……縁って、ほんと不思議だな」


そう呟きながら、

しばらく空を眺めていた。

バッグは今も部屋の隅にある。

ただの道具として、

静かに、穏やかに。

あの夢も、

あのざわつきも、

今はもうどこにもなかった。

ただ、

青空の下で、

ほんの一瞬だけ、

バッグの革が光を反射して

“誰かが微笑んだように”見えたのは、

気のせいだろう。

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