カメラバッグの謎8
女性がショックで言葉を失っているのを見て、
俺はゆっくりと息を吸い、
落ち着いた声で口を開いた。
「……自分でも、変な話だとは思っています。
でも、俺は骨董品が好きで……
いろんな曰く付きの品にも触れてきました。
だから、どうしても気になってしまって。
聞かずにはいられなかったんです」
女性は顔を伏せたまま、
両手をぎゅっと握りしめていた。
その指先は白くなり、
肩はわずかに震えている。
しばらく沈黙が落ちたあと、
彼女は絞り出すような声で言った。
「……返品……されますか……?」
その言葉には、
“恐れ”と“願い”と“諦め”が全部混ざっていた。
まるで、そのバッグを手放したこと自体が
ずっと胸の奥に刺さっていたかのように。
俺は静かに首を振った。
「いえ……返品はしません。
バッグに問題があるわけじゃないですし、
俺が勝手に気になって聞いただけですから」
女性は小さく息を吐いた。
安堵なのか、落胆なのか、
その感情は読み取れなかった。
ただ、その表情にはどこか“疲れ”が滲んでいた。
俺は冷めきった珈琲を一口で飲み干した。
苦味はほとんどなく、
ただ温度だけが喉を通り過ぎていった。
「……今日は、ありがとうございました」
それだけ言って席を立った。
女性も立ち上がり、深く頭を下げた。
「……こちらこそ……
話してくださって、ありがとうございました……」
その声はかすれていて、
これ以上何かを聞くのは彼女を傷つけるだけだと分かった。
だから、それ以上は何も言わなかった。
喫茶店を出ると、
昼下がりの光が妙に眩しく感じられた。
バッグの重さが、
いつもより少しだけ
肩に食い込むような気がした。




