表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/287

カメラバッグの謎8

女性がショックで言葉を失っているのを見て、

俺はゆっくりと息を吸い、

落ち着いた声で口を開いた。

「……自分でも、変な話だとは思っています。

 でも、俺は骨董品が好きで……

 いろんな曰く付きの品にも触れてきました。

 だから、どうしても気になってしまって。

 聞かずにはいられなかったんです」

女性は顔を伏せたまま、

両手をぎゅっと握りしめていた。

その指先は白くなり、

肩はわずかに震えている。

しばらく沈黙が落ちたあと、

彼女は絞り出すような声で言った。

「……返品……されますか……?」

その言葉には、

“恐れ”と“願い”と“諦め”が全部混ざっていた。

まるで、そのバッグを手放したこと自体が

ずっと胸の奥に刺さっていたかのように。

俺は静かに首を振った。

「いえ……返品はしません。

 バッグに問題があるわけじゃないですし、

 俺が勝手に気になって聞いただけですから」

女性は小さく息を吐いた。

安堵なのか、落胆なのか、

その感情は読み取れなかった。

ただ、その表情にはどこか“疲れ”が滲んでいた。

俺は冷めきった珈琲を一口で飲み干した。

苦味はほとんどなく、

ただ温度だけが喉を通り過ぎていった。

「……今日は、ありがとうございました」

それだけ言って席を立った。

女性も立ち上がり、深く頭を下げた。

「……こちらこそ……

 話してくださって、ありがとうございました……」

その声はかすれていて、

これ以上何かを聞くのは彼女を傷つけるだけだと分かった。

だから、それ以上は何も言わなかった。

喫茶店を出ると、

昼下がりの光が妙に眩しく感じられた。

バッグの重さが、

いつもより少しだけ

肩に食い込むような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ