カメラバッグの謎6
俺は、相手が話し始めるのを
ただ黙って、静かに待つことにした。
女性はしばらく視線を落としたまま、
指先をぎゅっと組んでいた。
その手が、ほんのわずかに震えている。
やがて、
ぽつりと、言葉が落ちた。
「……あのバッグ、
もともとは娘のものなんです」
その一言で、
店内の空気が少しだけ重くなった気がした。
女性は続けた。
「娘は写真が好きで……
よく撮影に出かけていたんです。
でも、ある日……撮影の帰りに事故にあって……」
言葉が途切れた。
喉の奥で何かを飲み込むような仕草をして、
またぽつりと続ける。
「大怪我でした。
命は助かったんですけど……
後遺症で、カメラを触れなくなってしまって」
その声には、
長い時間をかけて乾いた悲しみが滲んでいた。
「カメラ本体は、どうしても手放せないみたいで……
でもバッグは、見るのも辛いって……
だから私が代わりに出品したんです」
女性は、テーブルの上の珈琲に視線を落としたまま、
小さく息を吐いた。
「それでも……娘は今でも言うんです。
“撮影に行きたい”って……
“もう一度だけでいいから、外で写真を撮りたい”って……」
その言葉は、
どこか夢の中の病室の空気と重なった。
俺は、胸の奥がざわつくのを感じながら、静かに口を開いた。
「……娘さんが使われていたカメラのメーカーは、
○△ですか」
女性は驚いたように顔を上げた。
その目には、“なぜ知っているのか”という戸惑いが
はっきりと浮かんでいた。




