表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/288

カメラバッグの謎5

対面の席に座り、

店員に珈琲を二つ頼んだあと、

俺は軽く頭を下げた。

「来ていただいて、ありがとうございます」

女性は小さく会釈を返した。

その動きは丁寧だが、

どこかぎこちなく、

落ち着かない気配が漂っていた。

指先が、テーブルの縁をそっとなぞるように動いている。

視線は一度こちらに向くが、

すぐにカップの影へと落ちていった。

沈黙が落ちた。

店内のBGMが、妙に遠く感じられる。

俺は、その沈黙を破るように口を開いた。


「単刀直入にお聞きしますが……

 カメラバッグの来歴を、

 お話できる範囲でいいので、

 教えていただけないでしょうか」


言い終えた瞬間、

女性の表情がわずかに固まった。

驚きではない。

“触れられたくない場所に触れられた”

そんな反応だった。

彼女は唇を結び、

視線をテーブルに落としたまま動かない。

その沈黙は、

ただの間ではなく、

“言葉を選んでいる時間”

そんな重さがあった。

やがて、彼女は小さく息を吸い、

両手を膝の上でそっと組んだ。

その手が、ほんのわずかに震えている。

葛藤している。

話すべきか、黙るべきか。

その狭間で揺れているのが、

こちらにもはっきり伝わってきた。

珈琲が運ばれてきても、

彼女は手を伸ばさなかった。

数十秒、

いや、もっと長く感じられる沈黙のあと、

ようやく顔を上げた。

その目には、

覚悟とも、諦めともつかない影が宿っていた。

そして、ぽつりと、言葉が落ちた。


「……あのバッグ、

 もともとは私のじゃないんです」


その一言を吐き出したあと、彼女はまた視線を落とした。


「……正直、

 あまり話したくないんですけど……」


声は小さく、震えていた。


「でも……聞かれた以上、

 黙っているのも違うと思って」


ぽつり、ぽつりと、

言葉がこぼれ始めた。

まるで、長い間胸の奥に押し込めていたものを

少しずつ掘り返すように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ